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2013年12月2日

もっと朗らかに 大平 忠

 私には忘れられないお医者さんが一人います。
 もう60年以上前のことです。中学2年のときに肺浸潤を患い、週に一度電車に乗ってお医者さんの許へ通いました。結核では今や見かけない療法だと思いますが、「気胸」という治療を受けました。胸に針を刺す瞬間が痛く最初は通院がいやでした。ところがそのうちに、痛いのはいやでも通院の苦痛が減ってきました。
 理由は、先生がいつも朗らかで明るかったからです。通院をさぼらずに皆勤できたのも先生の明るさにあったからといっていいでしょう。親しくなった頃、聞いてみました。
 「先生はなぜそんなに明るいのですか」。
 先生答えて、「病は気からともいいます。患者さんに明るくなってもらいたい、だから医者も明るくないとね、たとえ夫婦喧嘩の後でもね」と、片目をつぶってウィンクしてくれたことを覚えています。
 さらに「人の価値は、出世するかしないかではなく、誰にでも明るく振る舞えるかどうかじゃないかな。『もっと朗らかに』が僕のモットーさ」と言ってくれました。

 私の病気は半年ほどで良くなりました。でも、先生は遠くへ引っ越されてしまいその後会ったことはありません。しかし、先生の「もっと朗らかに」の言葉は、それ以後も、落ち込んだり怒ったりしたときなどに、いつも思い出されて、大きな励ましになってきました。
 私にとっては、身体と心、両方のお医者さんだった先生が今も懐かしくてなりません。


大平 忠



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