2013年12月17日
病院の表情 坪田英熙
共立荻野病院の受付に立つと、その右側の壁に室生犀星の「山上の星」という詩が掛けられています。荻野鐵人院長の力強い見事な書です。
私は、この病院を訪ねると、いつも爽やかな印象を受けるのです。病院特有の重苦しさではなく、明るい雰囲気です。
病院の評価に関する本や雑誌の記事を読むと、医療の質の高さ、医師や看護師、病院のスタッフの応対、設備や機材の水準など様々な指標が出てきます。
私が今まで案外的を射ているように思っていたのは、そういう至極当然のことではなく、院内の匂いも大事だという指摘でした。匂いは、その病院がどれくらい院内の環境の維持に注意と努力を払っているかを顕しているからです。
でも私は、この詩、この書を見ているうちに、病院にはもう一つの大事な指標があるんじゃないかと思うようになりました。
この額には次のように書かれています。
山の上の星は荒々しく
黒雲の間から
幾万となく差し覗いてゐる
何者かの表情を顕してゐる
地上の樹々にも一杯の星
室生犀星の詩は、このあと
地上の樹々にも一杯の星がうつり
夏の夜は高く晴れ上がってゐる……
と続きます。
「黒雲」は、病院を訪れる患者の方々が心の中に抱えている不安です。その不安の雲の間から高く晴れ上がった夜空に煌めく沢山の星が見えます。
「星」は、病気や傷の痛みや不快が癒えて、再び健康な日常生活に戻ることが出来るという希望です。
病院は、不安を抱えて訪れる患者の方々に、明るい希望を与えるところでなければならない。私が感じる爽やかな印象は、「希望」を示すこの病院の表情のためじゃないかと気づきます。この病院を訪れる人たちは、黒雲の向こうに希望の星を見る。これが一番大事なことだと。
平成25年12月16日 坪 田 英 熙