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2014年1月16日

退職後の十年 桐村俊一郎

 私もまた荻野院長と高校の同期生で、コラムに短文を徴せられました。先づは余生をどう過し何を思うか、最も切実な私事から始めさせていただきます。
 私は二つの会社の技術系社員として40年ほど働きました。高度経済成長期の日本の企業では、会社に利害がないことは我が事にあらずというのが普通で、文学どころか音楽を聞く余裕もありませんでした。

 緑内障が進んで十余年前に退職し、すぐに二度目のがんの手術をしました。幸い抗がん剤の必要もなく生き延びていますが、視力の低下で、英文小説はおろか日本語の本も年々読めなくなってきました。それでもシモーヌ・ペトルマン著「詳伝シモーヌ・ヴェイユ」を読了できたことを喜んでいます。私は、シモーヌ・ヴェイユの言葉「人間は社会的動物であり、社会的なものは悪である」によって悟りの境地を得ました。この言葉は、人間の社会・組織は「言葉を操る者が真の生産者を支配し抑圧する結果に陥る」の趣意と解釈しています。

 苦行のような貧しい読書、数カ国語のNHKラジオ初級講座、「聞かずに死ねない」音楽CDの蒐集、将棋の勉強などで時間を費していた私に2008年の秋、転機が訪れました。高校の同期会で、院長先生ともお親しいHさんから句集を戴くことになり、またM君から彼の連作短歌が載った「地上」誌を戴きました。ともに感銘深いものでしたから精一杯の感想を書き送り、お二人との文通が始まりました。やがて批評するだけではフェアではないと思うようになり、翌年の6月初め、未明まで啼き続けるホトトギスを聴いて俳句と短歌を幾つか書き留めました。古希を過ぎて初めての創作体験です。

 その後、俳句は難しいが、短歌ならできると旅詠などの量産を始め、3年前から阪神地区の歌会に参加しています。短歌を作るようになって得られた些やかな充足感から、人には自己表現の場が必要なのだなと初めて気がつきました。93歳の叔母の余生を80歳で始めた俳句が支えていることも理解できました。
 推敲もまた味わい深い過程で表現の喜びを倍加します。

  ひとたびはよしと思へる歌になほ直すべき瑕見えれば嬉し   桐村

 現に仕事をお持ちの方は個性的な仕事で自己表現できれば何より幸いです。余生にもまた自己表現のカタルシスが必要であり、前記のお二人をはじめ、好意的なご指導と励ましを戴いた同期の皆さんに感謝しています。   (以上)

兵庫県川西市 桐村俊一郎



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