2014年2月18日
Que horas são? 坪田英煕
1970年の秋に羽田から国際線に乗り、ニューヨークを経由してリオ・デ・ジャネイロに行った。生まれて初めての外国、会社に入って初めての海外出張だった。
数日後にサン・パウロに移動して、会議が始まった。
昼食の後暫く時間があったので、近くのポン・デ・シャという橋まで行って見た。「ポン」は橋、「シャ」はお茶。日本人が「御茶ノ水橋」と呼ぶところだ。
橋の欄干に寄り掛かって下を通る車を見下ろしていると、耳元で女性の声がした。振り返ると50歳台くらいの女性がポルトガル語で何か言っている。
解らないと首を振ったら英語になり、
「今、何時ですか?」
と尋ねる。
時計を見て
「1時50分ですね」
と答えると、更に会話が続いた。
「日本人ですか?」
「ええ、そうです」
「ここに住んでいるのですか?」
「いや、日本から来ました」
「あ、そう。私は日本と日本人が大好きです」
「それは嬉しい」
「私は、このすぐ近くに住んでいます。家に来て、お茶でも飲みませんか?」
「有難う。でもすぐ会議が始まるので、戻らなければなりません」
「すぐそこだから。ちょっとだけでも・・」
「折角ですが、失礼します」
と断って会議室に戻った。
ブラジルに永い商社の駐在員に「親切なひとがいましてね」と、この話を
すると、彼はニヤリと笑って、
「それは惜しいことをしましたね。こんな会議どうでもよかったのに」
と言う。
「えっ、どうしてですか?彼女ははじめになんて言ったんだろう」
「ケ・オーラス・ソン?ですよ。今、何時ですか?です」
それから彼は解説してくれた。
ブラジル人は早く結婚する。
夫が仕事で成功してリッチになると、若い美女を手に入れ、歳を取った奥さ
んを捨てて出てゆく。
カトリック教国のブラジルでは、離婚ができない。
残された奥さんは金があっても再婚できず、街に出て若い男の袖を引く。
その時の決り文句が「ケ・オーラソン?」だというのだ。
こういう場面で聞いた言葉は、一度で覚える。最初に覚えたポルトガル語だ。
2月17日
坪 田 英 煕