2014年3月17日
いす取りゲーム 2 坪田英熙
その頃中近東の航空便はどこもかしこも満席で、出張者はとても苦労が多かった。リアドからジュネーブ行きの飛行機に一旦座ったのに奸計をもって降ろされ、翌日ローマ経由でジュネーブまで荷物を取りに行ったことがある。
会社の先輩で同様にサウジによく出張した人にその話をした。
直後にその先輩はサウジアラビアに出張し、リヤドから国内便でアラビア湾岸のダハランに移動することになった。
偶々ロビーで一緒になった日本の若い商社マンと一緒に機内にようやく入り込むともう席がない。
目配せしてそれぞれトイレに入り、錠を下ろして座り込んだ。離陸前のチェックがいい加減で、乗員に気づかれず、機はそのまま離陸した。
シートベルトのサインが消えた頃を見計い、おもむろに通路に出て、スチュアード(サウジアラビアでは女性が職業につくことができないので、すべて男がやっている)に席がないがどうしてくれるか、と声をかけた
そこで騒動が始まった。スチュアードは顔色を変えてコックピットに電話する。副機長が飛んできて、重大な安全規則違反だ。ダハランに着陸したら警察に引き渡すという。
そのころのサウジの留置場や刑務所のひどい状況はよく聞かされていた。汚い、差し入れ以外に食事がない、などは序の口で、ひげを生やさず、肌のきれいな日本人はたちどころに同房の悪人どもの餌食になるという話まであった。
青くなった先輩と商社マンは、「乗ったとたんに下痢を起こし、やむなくトイレに駆け込んだら飛行機が離陸してしまったのだ」などと陳弁これ努めたが、同類が沢山いると見えて、「二人同時に下痢を起こしたのか」とせせら笑われ、全く効き目がない。
しかし、外国人で社用出張(観光ビザというのはなかったが)であり、サウジ側から招聘された仕事だったことが酌量されたのか、最後に機長が出て来て、「仕方がない。アッラーがお恕しになる」ということでスチュアードのジャンプシートに座らされ、ダハランに着陸。ドアが開いて真っ先に逃げるように空港ビルに駆け込んだ・・・という話だった。
インターネットでどこでも好きな席を指定でき、当日搭乗するとそこがちゃんと空いていて、すんなり座れる今のシステムは本当に素晴らしい。
3月15日 坪 田 英 熙