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2014年3月18日

丁重なお巡りさん 坪田英熙

先月、箱根からの帰りに西湘バイパスで覆面パトカーに捕まった。あの見通しのいい自動車専用道路の制限速度が70kmというのはなぜなのだろうか。
2人の警察官はとても丁重だった。とても丁重に違反の事実を説明し、とても丁重に反則金の納付書を交付してくれた。
それで、昔リオデジャネイロで2人の警察官に車を止められたことを思い出した。単身で赴任後まだ半年経っていなかった。妻と一緒にやってくる中学生の息子がアメリカンスクールへの編入を希望するかも知れないと思って、丘の上にある学校を訪ねた帰りだった。坂道を下りて住宅地に入る突き当たりにパトカーが停まっていて、止まれと合図する。何かやったかと周りを見ると、そこは一方通行の入口だった。
近くの交番、というより立哨台のようなところに連れて行かれ、取り調べが始まった。住所、名前、職業を聞かれ、あんたの車か、車検証を出せという。
まずいことに私のブラジル・フォルクスワーゲンのサンタナは、前任者から譲り受けたもので、名義変更手続きのために車検証を役所に出していた。
「あんたは、交通違反を2件やっている。一方通行違反と車検証不携帯だ」
「そもそも、これがあんたの車かどうかも分からんじゃないか。本当かねえ」
「勤め先はどこなんだ」
「何をやってる会社か」
不自由なポルトガル語で陳弁これ努めながら先輩からここの警察官は袖の下も受け取ると聞いていたことを思い浮かべる。しかしそれは、周りに人がいないときに限る。今日は相手が2人いるのだ。交通違反2件の上に贈賄罪まで上乗せされては堪らない。
話がようやく罰金の手続きに入り、「支払いは裁判所に行かなければならない。
車は名義書換が終わるまで保管される」と言われたところで、ようやく勇を奮って質問した。
「裁判所に行くことは分かったが、裁判所以外の場所で手続きすることはできないのだろうか」
「それはできるよ。ここでもいいんだ」
ああ、よかったと安堵して確かめた。
「罰金はいくらだろうか」
「2件で**クルゼイロだ」
インフレの激しい時期で毎月数十パーセントもレートが変わっていたが、それはおよそ60米ドルくらいの金額だった。
財布を出そうとして気がついた。その日は朝ゴルフをやって大敗し、数ドル分しか持ち合わせがなかった。小切手はあるが、これを受け取ると彼らは銀行へ行って名を名乗り、私名義の小切手を換金しなければならない。そのことをいうと
「構わないよ。全く問題ない」
いざ小切手帳を取り出すと、何ということか。相手は2人いるのにあと1枚しかない。
「問題ない。換金してから2人で分ける」
サインしようとするとボールペンがない。これを使えと貸してくれた。
安堵して帰ろうと腰を上げると、ちょっと待てという。もう払えないよ、金がない。
「あんたの会社はリオでも一番危ないところにある。警備はどうしてるのか」と意外なことを言い出した。「何なら俺たちがやってやるよ。それなら安心だ」
「警備のことはビルの持ち主がやっているので、自分じゃ決められない」と逃げると、案外あっさり
「あ、そう。それじゃ気をつけて帰りなさい。アリガトネ」
リオの警察官も丁重だった。

 3月17日              坪 田 英 熙


  • 共立荻野病院 客員顧問            坪田英煕氏
  • 共立荻野病院 客員顧問            坪田英煕氏

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