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2014年4月11日

露寇(ろこう)事件始末(6-25) 荻野鐵人

 江戸後期に蜀山人、四方赤良と号して和漢雅俗に渉る学を駆使して狂歌雅文にその才能を発揮した太田南畝は、文化6年(1809)「金曽木」と題する一著を公にした。この中に「青腿牙疳好薬」という一文が収められている。下記に全文を記す。

 青腿牙疳好薬 犀角解毒丹
 奥蝦夷の地にて脚に紫色の斑紋を発し口中腐爛するを治す。
 奥蝦夷地に異病あり、其名を青腿牙疳といふ。毎年暮れより春の末迄の間に病む者あり、夏より冬迄の間はいまだ見ず、故に奥地に越年せし人にのみ此患あり。我国地方になき病故、病人も医師も心得ぬもの多し、今其大略を記す。
 此病軽重によりて見症中不同にいヘども、先はじめ外部に冒さるる如く、寒熱ありて脚膝微腫骨節痛み此時にはや牙齦腫脚に紫斑を発するものあり。よくよく心を附して見るべし。又紫斑を発せぬものも有り。其後日を経るに随て、或は水腫の如く脇腹腰脚洪腫の事あり。或は脚気の如く、腫は微なれども衝心つよく呼吸促迫するものあり。或は痛風の如く、身体痛甚だしく、自ら転倒する事あたわざる者あり、種々の症を顕はすといヘども、誰にも同じき所は皆必下部或は一身に紫黒色の斑紋を発し、牙齦腫痛口中腐爛し飲食ともに下らず、いかんともすべからざるに至るもの多し。
 暮より春に至り此病にきざし有りて、或は寒熱或は脚痛口中不和心下痞等の症あらば、先奇効剤を用ひて寒邪を発散し、速に此解毒丹を用ゆべし。牙齦腫痛足に発せばいよいよ多く此解毒丹を服して其効を得べし、怠りゆるがせすべからず。

 太田南畝は、医家でもなく、直接蝦夷地に渡って水腫病を実際に経験したわけでも目撃したわけでもなかった。この文は恐らく、玄沢の「寒地病案」を読んで書いたものであり、水腫病の病状を記載したと考えないほうが良いと思われる。

 むしろ、「新撰北海道史」の、「蝦夷地に越冬する和人は一種の病に犯され、多く死亡した。其症状は最初、二便が渋り、足の甲より浮腫を生じ、次第に腰に及び、水膨れとなり、顔又むくみ、腹部が鼓の如くなり、苦痛甚だしく、終に死亡するもので、其容態は頗る脚気病に似て居るが、原因が不明なので、仮に俗説に従ひ水腫病と称して置く。寒気より来ると言ひ、又野菜の欠乏より来ると言ひ、古来種々議論があるが蝦夷人は極めて少なく、和人に多く、殊に風土に慣れない諸藩警衛の士の如きは最も罹り易く、季節より言えば夏に少なくして冬に多く雪中籠居して之に罹り、春暖気に向う頃に到って殊に多く死亡した様である」の記載は、実状を現していると考える。

 しかしながら「原始慢筆風土年表」(文化五年)には「浮腫に悩めるありて多くは紅紫の寸点を顕し死に至らんとす」の記載もある。


  • 共立荻野病院             院長 荻野鐵人
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