2014年4月12日
露寇(ろこう)事件始末(6-26) 荻野鐵人
そうかと思うと、安政三年に秋田藩が西蝦夷地の増毛地方の警備を命ぜられた際、一年間従軍医官として緒方洪庵、杉田玄端の弟子の秋田藩士岩谷省達が著した「胡地養生考」(秋田県立図書館蔵)の記載は次ぎのようである。
増毛地方の「水腫」または「腫病」の発生する時期は「冬月、寒気ヲ得、春暖ヲ須テ発スル」「緋ノ漁時ニナレバ病人ナシ」この「腫病」は「不正ノ気」が「速カニ発セズ」「潜伏内攻シテ春陽ヲ得テ」から発するものであるとした。誘因として「月夜速リニ剣術セシ人共ニ水腫」になりやすく、また、「壮実ノモノ急ニ飲食ヲ減少シテ却テ腫病」になるものもいるという。病状として「酷寒ニ冒触スルモノ春暖ニ至リ多ク凍瘡ヲ患フ、手足攣痺股脚ニ紫黒ヲ顕ス」とある。
治療法としては
一、「小豆の煎汁ニテ大根ノ絞汁ヲ呑マシム」、
二、「赤豆二碗米一碗ノ粥ヲ食シテ多ク治ス」
三、「赤小豆ト生ゴボウ煮テ用フル捷効ヲ奏ス」
四、「ゴボウノ生絞汁ヲ服シ強ク吐下シ却テ病者危篤ニ至ル者アリ」
五、「ビンザラサ(草名)濃煎シ用テ小便ヲ利スル聖薬トス」
六、「土人水腫ニハマナス花用テ効アリト云フ、煎汁ヲ尋常ノ茶ノ如ク朝夕用」
「手足攣痺股脚ニ紫黒ヲ顕ス」は出血を現すのか、それとも凍傷か。いずれにせよ、治療法は、ビタミンB1を豊富に含んだものの代表である小豆、赤豆、赤小豆、ゴボウが選ばれている。