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2014年4月13日

露寇(ろこう)事件始末(6-27) 荻野鐵人

 浮腫病の病態の原因は、A)栄養障害と、B)寒冷によるものとが考えられる。

A)栄養障害
 食物に関する記載は極めて乏しく、「米噌、酒、味噌、漬物、塩、酒肴」と、4月2日の記載に「生魚は去年の9月に食べてから現在まで口にしていない」とあるのみである。米、味噌、塩などは最後まで欠乏はしていないようである。とすると栄養の質の問題はあっても、絶対的カロリー不足、すなわち飢餓ではない。陸軍が戦時兵食として「1日に精米6合(白米900g)としたことからこの程度の量を食べたとすると、白米1合は534キロカロリーであるから3200キロカロリーの食事を毎日食べていたろう。
 エネルギー産生には、熱効率のよい糖質と脂肪が利用され、生命維持に必要な物理的(筋肉運動など)、化学的(酵素反応など)エネルギーや、熱(体温維持)エネルギーの供給源となる。この点では脂肪は明らかに不足していたとはいえ、米だけは十分に食べていたならば、絶対的カロリー不足問題は無かった。

栄養学的問題点
1)脂質
 生体に存在する脂質としてはトリグリセライド、コレステロール、リン脂質、糖脂質および遊離脂肪酸などがある。
 トリグリセライドはエネルギー源としての基礎代謝の約50%を供給し、また水の熱伝導速度の1/3であることから、断熱作用を有しており体温の維持に役だっている。
 リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸は、その欠乏により成長阻害、皮膚炎がおこることが知られており、また生体内で合成されないため、必須脂肪酸とよばれている。必須脂肪酸は植物油に高濃度に含まれていて、全摂取カロリーのわずか1~2%とれば、欠乏症状は現れない。
 住居や衣類が劣悪である以上、酷寒の中で生存するためには脂肪の摂取は不可欠であった。
 てんぷらや、油で炒めたものは食べていたであろうか?
 熊、鹿、うさぎの狩猟は冬は困雉でも、アザラシ、オットセイ、セイウチなどは、当時はいくらでもいたという。多少は肉が臭くても、ちゃんこなべのようなものでも作って十分なタンパク質と脂肪を取るべきであった。
 斜里の津軽藩守備隊の隊長であり、水腫病をすでに知っていたと思われる最上徳内は鯨油を米にかけて食べていたといわれている。なぜ自分だけが、部下を見殺しにしてまで。


  • 共立荻野病院             院長 荻野鐵人
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