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2014年4月14日

露寇(ろこう)事件始末(6-28) 荻野鐵人

2)タンパク質
 タンパク質は糖質や脂質とは異なりエネルギーの供給が主な作用ではない。タンパク質は細胞構築として重要なだけでなく、細胞内で酵素としてさまざまな生体反応を触媒する。また血漿中の凝固因子、アルブミン、グロブリンとして血液凝固、物質の運搬、免疫、膠質浸透圧の維持に関与している。両性電解質としての血液pHの維持、脂溶性ビタミン、内因性・外因性の毒物、ホルモンなどの担体としての機能がある。
 1. タンパク質は脂質と結合してリポタンパクとなり、脂質の代謝にも役立っている。ご飯1膳は約150gであり、カロリーは192キロカローでタンパク質を3.4gを含有している。ほとんど米だけの食事で、副食物は漬物、味噌汁、梅干し、塩魚だったとしても、斜里では一人一日6合が支給されていたことは明治の兵食が1日6合であったことからも考え得る。それならば総カロリーは3500キロカロリーほどとなり、重労働をしている下級隊員(大工・鳶・郷夫等)にしても、塞冷地では約20%増のエネルギーを必要とすることを考慮に入れても、不足はしなかったかも知れない。これだけの白米を食べると、糖質代謝にビタミンB1が補酵素として関わり、ビタミンB1が消費されてしまう。糖質の過剰摂取、寒冷による著しいエネルギーの消費、過度の肉体労働にビタミンB1欠乏が相まって脚気が発症する。

 しかしながらこれだけ米を食べ得たとしても、タンパク質の摂収量は約61gとなり、必要最小限1日量の75gには足りない。できれば、このような条件下では120gのタンパク質を摂取すべきであった。
 タンパク質の摂取不足だけでなく、総エネルギー摂取量の不足がもしあったならば、体タンパクの燃焼をもたらし、筋肉の消耗などとともに低タンパク血症をきたし、浮腫が生じたであろう。
 塩分の取り過ぎのためのナトリウムの貯留による体内の水分の過剰な蓄積による循環血漿量の増加も、血漿タンパク濃度を薄めて低タンパク血症を悪化させていたであろう。
 米以外の副食には保存のためにもどれにも塩分が多量に入っていたと考えられる。また、また、中級、下級の長屋には井戸が無かったようだが、上長屋の井戸は使わせてはもらえなかったのか。飲料水にも潮が混入するようでは、塩分の摂り過ぎは明らかで、浮腫の原因となったであろう。
 上級武士だけは、少しは鱒・鮭(塩引魚)を食べていたのであろうが、その他の者は、米だけでは、必須アミノ酸は摂取できず、低蛋白血症は確実に起こっており、浮腫を生じ、さらに腹水も発生していたことも考え得る。
 2012年の日本小児科学会雑誌の川崎悠らの報告によると、15歳の男児が過去3~4年に亘り朝食を摂らず、昼、夕食で精白米を1日(どんぶり6杯程度)2000kcalと大量に摂取する一方、副食は種類・量ともに極端に少ないなど著しい偏食だった(カレー、シチュー肉ジャガ(具はいずれもニンジン、ジャガイモ、玉ネギ、牛肉)、麻婆豆腐(具は豆腐と合挽き肉のみ)炊き込みご飯、焼きそば(具はウインナー、もやし)しかメニューにはなく、野菜類では上記以外は食べたことがなかった。魚類全般、乳製品、海藻類、豆類も全く食べない)。この少年は発症から3週間で徐々に進行し歩行不能に至る下肢優位の筋力低下と四肢の浮腫で入院し、ビタミンB1投与で9日目に自力歩行が可能となった。母親は5人の子供を抱え父親はいない。安い食品の大量買いで子どもたちに食事を与えていたという。副食は種類・量ともに極端に少ないなど著しい偏食と報告者はいうが、最近の母親ではこの程度しか料理ができなくても普通ではないのか。逆に副食をこれだけ摂っていても白米が多いと、白米を代謝するためにビタミンB1が不足し脚気になるのである。


  • 共立荻野病院             院長 荻野鐵人
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