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2014年4月21日

露寇(ろこう)事件始末(6-33) 荻野鐵人

 安政3年(1856)の「御諭書」でも、得内の「火毒説」とほぼ同様に、「火気中に籠りたる「炭素」という一種の気があり、炭火は殊に甚だしく、其気に深くあたりぬれば、身体の蒸気を塞ぎて、多くは浮腫病を発し甚敷は忽ち暈眩昏倒するものなり。平常第一の養生はたえず山野を歩行し、身体を運動し、武芸力業等をなしておこたりなければ、寒邪におかされず、まして浮腫の憂決してなかるべし」と、記されている。大正3年の臨時脚気病調査会において、長與又郎は、「北海道に於ける所謂水腫病に就て」と題して、以下のように記している。
「北海道に於ける所謂水腫病は単に脚気に外ならずと断ずること能はざるが如く、其の一部は比較的予後不良ならず、症状は湿性脚気に一致するも、水腫病の他の一型即ち高度発熱と主として顔面に始まり漸次下降する強度の浮腫を特有として予後多く不良なるものは、湿性脚気と断じ去るの根拠なきが如し、此の疾患は内地に於ける脚気の諸型とは異なれるものあり、印度に於ける流行性水腫に類似せる所多きも熱、貧血、発疹等の関係は之と異なれる所あり、此の病状は何等かの熱性疾患に脚気の合併せるものと断定するの根拠なし、何れにせよ該病と脚気病との間には其の発生要約及病の本態に於いて近似せるものあるは疑ふべからず、したがって脚気本態の研究にとりて該病の精細なる調査は意義あるものなり」
1)住居
 上級隊員(勘定人・与力・作事受払役・御医者等)、中級隊員(足軽・御持鑓等)、下級隊員(大工・鳶・郷夫等)に分けると、死亡者の比率は上級隊員より中級隊員、中級隊員より下級隊員と著しく増加している。生存帰国者の比率は上級隊員が中級隊員、下級隊員の二倍である。中級隊員と下級隊員の生存帰国者の比率が余り変わらないのは、中級隊員の引揚前出立者の比率が下級隊員の二倍以上であるためである。これは、中級隊員は引揚前出立の願い出が許可されたのに反し、下級隊員は引揚前出立の許可がとり難かったためであろう。上級隊員は柾屋根の上長屋(三十六坪)、中級隊員は柾屋根の中長屋(三十坪)、下級隊員は萱葺き屋根の下長屋(三十坪)に住んでいたのだから、三種の長屋の寒さに対する防御の差が、そのまま発病の差になっていたとも思われる。外での仕事をさせられた下級隊員はさらに不利であった。食事の差もこれを増悪はさせたであろう。
 前述した若宮丸漂民十三人がイルクーツクで見聞きしたことの中で「石屋は少なく木造の二階屋が多い。ペチカという煙を使った暖房があり、家の内は甚だ暖かく、襦袢一枚で暮らしている。これには我々も、始めのうちは眼が飛び出て気が遠くなるほど驚いた」とある。200年以上前にこれだけの暖房の差がある。現在でも冬「シャツ一枚で暮らしている」家はほとんどないのではなかろうか。
 さらに「風呂はから風呂で、めいめいの家にあり、住居からは離れて建っている。石を積んでおいて、その下で火を焚き、その石を焼く。この焼けた石に水をそそぐと湯煙が盛んにたって室内に充満させる。室内には棚があって、人々はその棚の上に裸になってすわり体を蒸す。小桶に冷水を入れておいて、火気があまりに堪え難いときは顔にそそぐ。垢もよく取れ、草臥(くたびれ)も直る。月に四度入る」
 200年も前にサウナがある家がある。我が国の住宅のお粗末さは外国の寒冷国とはどれだけ開いていたのか?


  • 共立荻野病院             院長 荻野鐵人
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