2014年5月7日
イキ・イキ・エイジング 【第十九回 「人を食った」話】 後藤 眞
戦後日本の復興に尽力した吉田茂元首相は、90歳近くになって「長寿で元気の秘訣は?」と質問を受け、「人を食っているからだ」と答えたそうです。
まことに人を食った返事ですが、なるほどと思わせるところが、明治生まれの名宰相のゆえんかもしれません。
まがまがしい話ですが、戦争や遭難事故に際して、人を食べたという話があります。
真偽のほどは定かではありませんが、そうした場合、本当に長生きできたのか記録がありません。また、トラやクマに食べられた事件を耳にしますが、そうした猛獣はすぐ射殺されたりして、長寿は得られないようです。
800歳まで生きた八百比丘尼(びゃくびくに)が、最期を遂げた洞窟が、福井県小浜市の空印寺にあります。
死亡時、容貌は少女のように若々しかったそうですが、人ではなく、禁制の人魚や九穴のアワビを食べたせいだと伝わっています。
ところで、ドストエフスキーを持ち出すまでもなく「若さ」や「元気」は、「美」と同じように定義がなく、難しいものです。時代、文化によっても変化するようです。
カリフォルニア的な、カラッとした開けっ広げな「若さ」「活力」は、見ていて爽快で、楽しいところもありますが、あきれかえるほどノー天気にも見えます。こう考えるのは、理性や教養、知恵に、意義を感じる旧人類の感性のなせる技だからかもしれません。
世界的に、老人が増え、若者が減少し、人類全体の老齢化が、急速に進行しています。
人生は、たかだか100年単位です。いずれ地球環境の老化に従って、生物の生き残るチャンスは無くなりますので、「若さ」「長生き」は、個人の趣味の問題ではなくなりつつあります。グローバルであることと、ローカルであることは不可分なのです。
自分の遺伝子の永続性が、生物の生きている意味だとか、目的だとも言われています。
われわれは、単にそうした遺伝子の下僕にすぎないという考えもあります。そうならば、どう頑張っても、いずれ消えてなくなるのだから、自助努力もサプリメントもあほらしいと言わないでください。
少なくとも、残りの人生を楽しく過ごすためには、日々の多少の努力が役に立つはずです。また、その際、人を食うのは話だけにして、決して実行しないでください。お願いします。