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2014年5月6日

露寇(ろこう)事件始末(最終回) 荻野鐵人

現存する脚気
 ビタミンB1(チアミン)含有量の少ない精白された白米食をやめられないわが国の食生活では、副食をかなり改善しても、肉、卵黄、緑色野菜、米の胚芽、麦などに多く含まれるB1摂取量をいちじるしく増加させる事ができない。平成元年および同三年の国民栄養調査でもビタミンB1摂取量は1日1.26ミリグラムにすぎない。
 成人男性における1日所要量は1~1.5mg/日、または摂取カロリー1000kcalにつき0.54mgを要する。1日の摂取カロリーは通常約2000 kcalだから、約1mgは要することになるし、2000 kcal以上必要とするスポーツマンや、肉体労働者は約1.5mg以上となる。

脚気の発生要因としては

1. 白米食の普及、主食は白米
2. 即席食品、加工食品、保存食品の増加
3. 清涼飲料水、コーヒー、菓子類、菓子パンなどその代謝にthiamineが必要な糖質の多量摂取、糖尿病
4. 若者の偏食傾向、ジャンクフッド、即席ラーメン
5. 激しい運動、労働による著しいエネルギーの消費、運動部での菓子パンの昼食、全糖性清涼飲料水を多飲しながらの高温下で運動競技の練習、夏季合宿
6. 寒冷による著しいエネルギーの消費
7. アルコール多飲者では、食事の質の低下、アルコールの分解によるチアミンの消費、消化管からの吸収の低下などからチアミンが欠乏しやすい。生活が破綻した高度なアルコールの耽溺者の4%前後に脚気がみられる。
8. 中高年の離婚、未婚者による一人住まいや高齢の両親との同居等による食生活の不備
9. 超高齢者などの古典的な日本式食生活、白米飯のみに偏った食生活(白米に乗せた佃煮、粥と梅干、お茶漬け)。元来筋肉運動が寡少であるためにチアミンの需要が低く、摂取不足による障害が顕在化しにくい。
10. 発熱、妊娠、授乳、甲状腺機能亢進症、などに伴うエネルギー代謝増大や入院時の高カロリー輸液などに伴うビタミンB1消費増大による代謝異常
11. ビタミンB1は主として上部小腸(特に空腸)から吸収されるため、既往歴では胃腸手術歴も重要になってくる。
12. ダイエットサプリメントを摂取などの過度のダイエット
13. アトピー性皮膚炎のため、食物アレルギーでの過度の食事制限
14. チアミンは腎臓から排泄されることから利尿剤の長期投与により欠乏しやすい。そのため慢性心不全患者では食欲低下による摂取不足に加え、利尿剤による排泄の増加でチアミン不足となりやすいことに注意が必要である。
15. 持続する嘔吐や下痢、血液透析、腹膜透析によって失われる量が増えることや、吸収低下
16. 肝障害、内分泌疾患やtransketolase異常を呈する遺伝的異常
17. 養育過誤
18. 虐待
19. 精神発達遅延

 脚気は消滅した過去の病気ではない。白米主食が続く限り、いつでも脚気は発生しうるから、決して脚気病を忘れ去ってはならない。飽食の時代といわれる今日だが、心のこもった家庭料理が減り、インスタント食品や加工食品の安易な利用、外食産業の蔓延によって、家庭外での安直な食事も増加する一方である。

 食生活の基本…自然の食品を調和よく摂る…を無視した食の簡易化が、栄養の不均衡をきたし、肥満症や各種成人病をつくる一方、ビタミン欠乏を来したのである。

 最後ではあるが、松前日記の津軽藩戍兵、その後の戦争での脚気死者、最近まで続いている脚気で亡くなられた方々のご冥福をご一緒に祈ろうではないか。


  • 共立荻野病院             院長 荻野鐵人
  • 共立荻野病院             院長 荻野鐵人

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