2014年5月7日
夢「フラミンゴ」 荻野鐵人
ビキニ姿の女の子たちに手をひかれ、プールを闊歩している。“Raise your legs, Dr ” “Come on, Dr.” “Splendid”などの嬌声がいやが上にも気持ちを高ぶらせ、私も思わず、拳を振り上げ、”Let’s go, girls”などと叫んで勢いよく歩いてしまった。おや、この子たちはblondのCaucasian girlsではないか!彼女たちの英語の耳心持ちよいこと!うーん、さては夢だな。
プールはS字をしており、全周は80メートル、プールの底は七色である。ハワイアンの流れるプールサイドはハイビスカスが咲き乱れ、数人の女の子たちがバスケットのチアガールのように踊りながら盛んに声援をあげている。水温は冷たからず熱からず、体温に近い感じか、深さも約1m、若かったころと同じように背筋を伸ばし、腿を高く上げ水を蹴上げるように歩いていく。つい昨日まであった変形性関節症による脊椎・腰椎・膝の痛みも全くない。浮力を受けて体が軽く、それでいて水の抵抗が爽快である。彼女たちはわたしが1周するたびに声援を上げ、うれしくてしょうがない、という顔をしてくれる。私もアドレナリンだかテストステロンが出まくり、とうとう15周もしてしまった。“You made it, Dr.” “Gorgeous” “Unbelievable”、このあとこの応援団全員とハグだ。ふと気がつくと、私の体も腹がへこみ若者のからだだ。すると“This is your bonus”といって、紙幣を450フラミンゴ手渡してくれた。首から吊った透明のビニール袋に入れろという。
プールから上がってシャワーを浴び、着替えたところで、“Jane, physical therapist”という子に手を引かれ、マットの上に寝かされた。おや、back ground musicも変わった。ヨハンシュトラウスのウィーンワルツだ。見渡すと、指導者に付き添われて、熱心に陶芸、書道、絵を描いている人、楽器をいじっている人もいる。
“Just, relax, Dr.” 彼女は私の背中側から羽交い締めするように肌を寄せてくる。彼女の胸のふくらみも背中で感じざるを得ない。彼女の白い足が私の足にからまって、筋肉、関節、腱を気持ちよくストレッチしていく。“Trapezius, brachialis・・・”一つ一つの筋肉の名前をラテン語でささやくのだが、これも単なるあやしげなストレッチではなく、よく分かってやってくれている、さすが専門家だ、と学名になじみがある医師の心をくすぐる。“What’s this?” 私は聞いた。“This is a passive stretch, Dr.”
20分ぐらいで終わってところで、Elizabeth, と名乗るgreen eyeのphysical therapistによるoil massageが始まった。乙女の柔らかな手が頸部、肩、腕、背中、下肢の筋肉をやさしくもみほぐしていく。余りの気持ちよさについうとうとしてしまった。
“Wake up, Dr.” “ Let’s have a lunch” 連れていかれたところは、オープンキッチンのカウンターだ。グラスには気持ちよい音をたてて、給仕係らしいblue eyeの子が重く渋みのあるボルドーのメドックの赤ワイン注いでくれる。カウンター内のハンサムなシェフが盛りつけてくれる、すばらしく新鮮な野菜サラダだ、味をひきたてる味噌味のドレッシングがズッキーニ、アスパラガス、キュウリ、にんじんなどの根野菜の歯ごたえによく調和する。一口ごとに元気になっていく感じがする。食べ終わったところで揚げたてのトンカツが次々と皿に盛られていく。次々とフォークで口に運ぶのだが、パン粉のころもの粒もきめ細かくうすく、ジューシーな豚肉にソースの味付けとマスタードの辛さがマッチして最高だ。デザートはイタリアンドルチェの定番 パンナコッタとダブルのブラックのエスプレッソだ。この美味さは何なんだ。私の応援団も私がのどを通すたびに拍手また拍手だ。私が食べるたびにうれしくてしょうがないという顔をするのだ。すっかり、食べないわけにはいかない。全部食べたといってまたハグだ。ボーナスの紙幣もくれた。
“Let’s play cards, Dr.” 連れて行かれた緑もあざやかなカードテーブル、プール歩行で得た「フラミンゴ」紙幣をチップに両替してくれる。ブラックジャック、ポーカーをやってみたがディーラの子の笑顔に釣り込まれたのと、私を囲む女の子たちの声援にこちらも興奮してしまって気が付いたらチップが倍ほどに増えていた。いやについている。これも夢らしいな。
“Let’s play roulette, Dr.” 取り巻きにつれて行かれた本格的なルーレット台、これは塗りの色といい、木目の見事な本格的な美しい台である。見ているだけでも楽しい。これまた応援団の声援にハデに賭けまくったら、瞬く間に無くなってしまった。 あれ、夢なのに!“ Oh, no” “ Oh, God” などと彼女たちの落胆の声と、なかには涙さえみせる子もいる。とにかく1日中私の一挙一動に一喜一憂してくれる、金目当てでもないのに、これほど関心をもってくれる女の子に囲まれて過ごす一日なんて!
迎えの車がきたという声で出口に向かってみると、送って出た受付係は何と和服姿の八千草薫が頭を下げているではないか。さすがは夢だ、よく最後に私の初恋の人を登場させてくれた、このキャスティングをよく思いついてくれた。「ここの施設の名前は何ですか?明日も来たいので」と聞くと「ここは共立荻野病院の通所リハビリテーション、デイケア「フラミンゴ」です。明日はゴルフをなさいませ、ロング、ミドル、ショートの3コースしかありませんが、これをゆっくり何回も回って、途中の緑に囲まれたしもたや風の茶店でビールを飲んで芝生の上で寝そべったりしていらして、とても楽しそうですよ、私もキャディーとしてお供させていただきます。雨の日や暑い日は室内でのビリヤード、ボーリング、テニスもできますよ」と笑顔で答えてくれた。こんな人に重いキャディーバッグを担がせるわけにはいかない。明日は自分で担いでもこの人に同行してもらおう。初恋の人にお互いこの若さで会えるなんて、胸がキューンと鳴る。何とすばらしい夢だ。