2014年8月4日
akira's view 入山映ブログ 書評
東京外国語大学の今井千尋さんから「国家建設における民軍関係—破綻国家再建の理論と実践をつなく」(国際書院)を送って頂いた。彼女自身、16章からなるアンソロジーの一章の筆者でもあり、執筆者のうち何人かを個人的に存じあげていることもあって、最初は「お付き合い」程度に読み始めた。
しかし、読み終わって感じるのだが、本書は歴史的な名著だと思う。アンソロジーの余儀ない欠点として、中には感服しない論考も含まれているが、それを通り越して、これは「あとがき」で編者の上杉氏が述べるように「日本語による初めての本格的な」著述である。浅学にして外国語による文献はほとんど読んでいないが、日本において、この主題を巡って小児病的な言説がもっともらしくまかり通る中では、現実に目を見開かせてくれるという点で、国民必読の書であると言っても良いと思う。「歴史的」というのは決して誇張ではない。
これほど手放しで褒めるのにはいくつか訳がある。(別に今井さんに義理立てしている訳ではない。)その第一は、先に小児病的言説と言ったのと関係する。世界に誇るべき憲法九条を持っているのはともかくとして、それ故に「軍」について語るのは平和主義に反する、あるいはタブーだ、という種類の議論の存在である。どんなに醜い現実であろうとも、オーストラリアの駝鳥ではあるまいし、砂の中に頭を突っ込んで見ないようにしていればよい、というものではない。その存在を肯定するかどうかは別にしても、見据えた議論が必要だ。そうでなくてはこの四つの島の外では通用しない。それを認識させてくれるのが本書だと思う。第二の理由は、国連万能主義(5.15「国連」参照。)の幻想を打ち砕く実証的論述であることだ。もっと言えば、掲げる理想がいかに高かろうとも、現実と妥協点を求められるという実証的な論考である点だ。その妥協のないところでの理想論がいかに無意味かを見事に描写している。日本ではカリスマとして持ち上げられているだけの緒方貞子さんだが、難民高等弁務官としてこのジレンマに逢着した彼女の決断は読者を感動させる。そして、第三に混じりけなしに「人道支援」に特化することが可能だと考えるナイーブな日本「世論」の危うさを浮き彫りにしていることだ。いかに善意に満ちて人道支援に赴いても、銃弾飛び交う中では保護を求めざるを得ない。保護を求める行為自体が保護者の一味とみなされる。だから、銃弾のないところだけで「顔の見える」貢献をしたい、という。その虚妄と空虚さをこれほど明確に記述した例を知らない。
3.400円は決して安くないが、投資を後悔しない稀に見る書物だと思う。
2008年 06月 04日