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2014年8月7日

人間と自然-11-10 荻野彰久・荻野鐵人

胸苦しいときシャツのボタンをはずすように遮断器の前に車を停めると車の窓を開けた。広場の雪をじかに眺めるためであった。
「赤いオチンチン、アレアレ! 犬が交尾している!」――次男のRaybitより少し大きい未だおさない子供が連れの子供にこんなことを云って広場の犬を指さす。声は鋭く、横窓が開いていたので車のなかでも子供の声は手にとるように聞こえてくる。後ろにはY子が乗っている。フロントのガラス越に踏切向うの広場を見た。広場には二匹の駄犬が雪のうえでじゃれあっている。交尾しているのではなかった――雪の上で飛んだり跳ねたりしている。吠えつき、噛みつき、じゃれながら走っている。犬たちは走っていき、又走ってくる。全く犬らしいたわむれに彼らは我をわすれて楽しんでいる。犬を前に騒いでいた二人の子供は周りに人がいないとみると、ダルマツクリに群がって行く方へ走っていく。
白い広場には、広い雪面が朝の太陽を受けて更に明るく、自由にたわむれている犬たちを浮び上らせていた。一面の雪のせいでもあろうか。〈生きものは美しい〉と彼は思った。そこには転がり、起ち上り、生がそのまま躍動しているのであった。あたりの穢れを隠した白い雪は、犬たちに清潔な背景をあたえていた。
「何だ、離れているじゃないか!」スキー道具を抱えた若者が、倒れている新しい自転車を指さしていうと、道具を持たないもう一人の青年が、
「じゃ、いまのうちにふたり、逃げるといいのに!」と笑う。



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