2014年8月28日
akira's view 入山映ブログ しばらくお休み(2)
IT環境に無縁の山ごもりの筈が、ひょんなことから8月までに一度だけアクセスができることになりました。とはいえ、これが読者の皆さんに届くかどうかは保証の限りではありません。ので、いわば8月までのお休みの番外編です。
オルマート・イスラエル首相の最近の外交姿勢には目を見張らせるものがある。かつてはあれほど峻拒していたハマスとの対話に踏み切ったのを始め、近隣のアラブ諸国への積極的なアプローチもこれまでに見られなかったものだ。何がこれほど急激な変化をもたらしたのか。
ファリード・ザカリア(ニューズウィーク編集長)は、彼が持っているCNNの番組GPSの中で、この外交姿勢の変化は、数ヶ月以内にあり得るイスラエルのイラン攻撃に備えて近隣諸国・諸勢力との融和を図る一種の「根回し」ではないか、という興味深い見方を示した(7月21日)。イスラエルとパレスチナの国連大使が番組に参加していたが、イスラエル大使はこのコメントを言下に否定するのではなく、「外交による解決に強く期待する」と述べるに留まったのは意味深長と言えば意味深長だった。が、むしろ番組の最後で、イスラエル大使がパレスチナ大使に向かって「お祖父さんにおなりになったそうでおめでとう」と話しかけ、「どうもありがとう」と応えていた親密さがより印象的だった。
イランについては、悪の枢軸だ、制裁だ、とあらん限りの敵対姿勢をとっていたブッシュ政権が、ここに来て核交渉の開始だ、テヘランの外交部設置だ、と急展開を見せたのも驚きではある。そんなコンテキストでのイスラエル外交だけに、ザカリアの観測がひときわ印象的だったということだろうか。まさに国際政治は一寸先は闇かもしれない。しかし、オルマート外交をそうした下心だけで評価するのには疑問もある。というのも彼は通産相時代、1999年にタカ派の重鎮として来日した際に、「一つのパレスチナ国、一つのイスラエル国という解決以外に解決はあり得ない」と明言しており、そのスタンスに限って言えば急転回した訳でも何でもないからだ。
パレスチナ問題をイラン問題と切り離して考えるのは非現実的だが、全く同一のコインの裏表と見るのも極端に過ぎはしないか。確かにイスラエルは近隣諸国の核保有に対して極めて敏感で、ミサイルによる施設破壊も辞さない、という態度を取っているのは衆目の認めるところだ。しかし、パレスチナ支援を国是とするイランが、核兵器をイスラエルに対して使用すると考えるのもまた非現実的だとの誹りを免れまい。イスラエルのみに被害を与え、パレスチナに影響を及ぼさない核使用は考えにくいからだ。
イスラエルを地上から抹殺する、とアラブ諸国が豪語していたのはそんなに遠い昔の話ではない。四次にわたる戦争に全て勝つことによって存在を確立したイスラエルにとって、軍事力による存在確保はもはや本能であると言ってよいだろう。タカ派でなければ和平交渉は成功しない、というのはこの事情による。外交手段と真意あるいはホンネが一致しているように見せながら実のところは、という例は何もどこかの将軍様だけの専売特許ではない。紆余曲折の末にイスラエルとパレスチナが、そしてブッシュ政権とイランがたどり着いたかに見える中間点は歓迎すべきもののように見受けられる。願わくばその両者が異なったベクトルを志向するものではないことを。
2008年 07月 24日