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2014年9月9日

akira's view 入山映ブログ グルジア

グルジアとロシアの間の武力抗争がNATO(むろん米国を含む)の介入によって一段落したようである。それはそれで結構なことだが、この抗争の背景を観察すると、このまま事態が平穏に推移するとも限らない、という不吉な予感がしないでもない。
 というのも、ロシアとの間にいまだに未解決の領土問題を抱えている日本においては、ロシアには「一旦手に入れたものは絶対に手放さない北方の熊」のイメージが強く、ことあるごとにソ連崩壊によって喪失した領土境界回復、影響力復活に対する野心を隠そうともしない強権国家、とみなされがちである。それはそれで一面の真理を物語るし、プーチンはひときわその傾向が強い政治家であることもよく知られているが、今回の対グルジア紛争はそれだけでは説明できない要素がいくつか存在しているからだ。

 つまり、悪者ロシアが自国南部の「北オセチア」と連接して存在しているグルジア領「南オセチア」の統一願望、あるいは民族意識を利用してグルジアの主権に干渉し、武力介入を試みた、という世界のあちこちで見られる単純な図式とはいささか様相を異にしているということだ。介入を試みるについては幾つかの動機がある。安全保障上の配慮、経済利権、波及効果への危惧、国家威信の維持などが代表的なものである。今回の紛争にはそれらが全て混在している上に、さらに幾つかの歴史的要素が加味されているからだ。

 まず第一にグルジアがNATO加盟に強い意欲を示していること。トルコからコーカサス、中央アジアにかけてのロシアの「柔らかい下腹」に対する米国の影響の増大をロシアは何としてでも阻止したい。さらに、カスピ海石油資源のパイプラインルートをロシア領内に封じ込めることによって、エネルギー供給を独占することがロシアの世界政策の重要な一環なのだが、それがグルジア、あるいはオセチアに向かうことによって、ロシアはそれを指をくわえて見ていなければならなくなること。同じ状況がグルジア内の疑似独立国、アブハジアについても起こる可能性があること。それに加えて、「バラ革命」によってシュアワルナゼ政権を打倒した現在のサアカシビリ政権が、大統領の個性と相まって、脱ロ、親NATOの方向を一層協力に打ち出していること、などがそれである。

 今回の衝突にしても、サアカシビリがNATOの支援を含みに、先制攻撃に踏み切ったという説もあるくらいで、コソボを喪い、さらにオセチア、アブハジアを喪うことには、ロシアはどうしても耐えられない、という側面もある。もとはと言えばソ連解体の際にCISに留まることを拒否したシュワルナゼの選択に起因しているとはいえ、その選択の後でもなおグルジアの主権下に包含されることを潔しとしない「独立国」南オセチアとアブハジアが、曖昧なままで現状維持に推移するならともかく、さらにパンドラの箱を開けることだけは絶対に阻止したいという配慮もあったことは明らかだ。

 よく知られているように、サアカシビリ本人を含め政権の主要閣僚は、米国が将来を見越して一本釣り(handpick)に近い状態で米国の有名大学に留学させている。どこかの国のように、米国新政権が成立したら主要人物をあわてて京都に招待しよう等というさもしい近視眼とは訳が違う。世界の民族紛争と言われ、宗教紛争と言われるもののほとんど全てに、アングロ・サクソンを中心とした旧宗主国や、冷戦構造の影響が大きな影を落としているのは誰もが知るところだが、今回紛争の一段落については、ユニラテラリズムで悪名高いブッシュ政権が、その末期にあることもあって、欧州各国の介入が与って力あった。米国のご意向を他国より五分早く知ることに全力を傾注してきた日本外交が、今後もその道を歩み続けるのか、従来型の権謀術数の限界に対して新たな解決策を提示できるのか。中央アジアからコーカサスにかけてのこの地域、またこれに隣接するトルコから中東にかけての地域は格好の試金石を提供するように思われる。先に紹介したCELAというのも、そのほんの一例に過ぎない。

2008年 08月 14日



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