2014年9月14日
akira's view 入山映ブログ グルジア(2)
和平合意が成立したと伝えられるグルジアだが、ロシア軍はさっぱり撤退の様子を見せず、それどころか狼藉の限りを尽くしているという報道もある。グルジアのマチャワリアニ駐日大使はジョンズ・ホプキンス大学留学仕込みの流暢な英語を操って、東京のあちこちでグルジアのスポークスマンとして大活躍である。そのうちの一つ、22日の外国特派員クラブでの彼のプレゼンテーションを紹介したい。当然のことながら、全ての内容は大使の見解であり、客観的事実であるかどうかの検証は筆者の能力を超えることをあらかじめお断りしておく。
2万のロシア軍は、500台の戦車を伴って8月8日にグルジア(より正確には南オセチア)侵攻を開始した。その後ロシア軍は戦線を拡大展開し、南オセチアを超えてグルジアに侵入、略奪、強姦、破壊、殺戮とあらん限りの蛮行に及んでいるという。侵攻の名目は平和維持とロシア人保護だが、これはロシアがソ連時代から常用している口実であり、実態は(でっちあげの現地の一部グループの要請による)代理戦争ともいうべきむき出しの他国支配に他ならない。保護の対象とされる「ロシア人」なるものはロシア旅券保持者を指しているようだが、実態は短期間の間に配布されたロシア旅券(通常は数年を要する旅券交付が、わずか数週間で全員に配布されたという。)が口実として使用されているに過ぎない。これを侵攻の正当な口実として認めるのであれば、ナチス・ドイツのかつての侵略に対するそれと選ぶところがない。中央アジアに4百5十万人存在する「ロシア人」に対しても同じ論理が適用されれば、一体どのような事態が想定されるか、と大使は言う。
2003年の「バラ革命」以来、グルジアはロシアとの国交正常化の交渉を続けてきたが、プーチン政権の要求は、両者の言い分の妥協点を求めるという態度からは遠く、一方的かつ全面的にグルジアをロシア支配下に置こうとする以外の何ものでもなかったという。その間にアブハジアとオセチアでは「民族浄化」(ethnic cleansing)が進行し、グルジア人の国内難民は16万人(ちなみにグルジア総人口は440万人)に及ぶ。3千年の歴史を持つグルジアは、わづか数百年の歴史しか持たないロシアあるいは旧ソ連との「付き合い」には習熟している。のみならず、軍事力でロシアに抗すべくもないこと位は十分承知している。野蛮な覇権国家ロシアに対抗するためには西側の抑止力に期待する他ないのは常識に属するではないか、グルジア人にもそれくらいの知性はある、と大使は言う。
コーカサス地域には、エネルギーインフラを中心に既に3百億ドルの西側資本が投下されている。これを西側が簡単に放棄するとロシアが考えている筈もない。従って、プーチンの今回の行動の真意はどこまで強腰に出れば相手がひるむか、という駆け引きに他ならず、残念ながら目下のところひるんで一歩退いたのは西側のようだ、と大使は見る。しかし、これは極めて危険な賭けであり、ここで退くことはプーチンを増長させ、次にウクライナを標的にすることは火を見るより明らかだという。ロシアの「やわらかい下腹」にNATOを始めとする西側の影響力が及ぶことはロシアにとって脅威だというが、その脅威とは何かロシアは定義できない。まさかNATOがロシア侵攻の野望を持っている筈もないだろう。むしろこうしたロシアの野望と蛮行に対する予防安定装置(stabilizing power)と考える方が妥当ではないか、というのが大使の見解だ。
ロシア支配下のグルジアを知る大使は、ロシア支配の過酷さを体験していると同時に、当然のことながらロシア語にも堪能で、ロシアに知己も多い。ロシア人に対する嫌悪や反感は持っていないという。しかし、むき出しのKGB手法に依存するプーチン政権には徹底した不信感と嫌悪を隠そうとはしない。日本を含む西側諸国は単に「懸念を表明する」に留まらず、主権侵害と非民主的な統治手法に抗議するより積極的な国際世論形成をこそ望みたいという。むき出しの大国の侵略意図の前に小国が対抗し、抵抗できるのはそれを頼りにする他はないからだ。さて、プーチン政権はこの非難に対してどのように応えるのだろうか。ロシア側からする意見の表明があれば、ぜひ聞いてみたいものだが。
2008年 08月 22日