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2014年9月15日

高遠そば-2-7 荻野鐵人

広沢富次郎の指示で、柴太一郎は神戸に海軍操練所を建設しようと奔走している勝海舟に会い、三条実美、姉小路公知らに攘夷の無謀さを説得してもらうよう頼んでみた。勝は『船に乗せてみれば分かるんじゃねえの』と例の調子の江戸弁で言い、門下生の桂小五郎(木戸孝允)を呼びだし姉小路に連絡を取らせてくれた。姉小路は70数名の供を連れて桂小五郎と大阪に下った。会津藩からは柴太一郎の他に、秋月悌(てい)次郎、広沢富次郎が一行に加わり大阪で順動丸に乗った。姉小路は勝の説明に聞き入った。『軍艦は、これに二十門、三十門の砲を積み、艦砲射撃を加えて陸地を攻撃いたします。世界には砲百二十門という戦艦さえございます』
『それらの軍艦が攻めて来たら、わが国はどうなるのや』
『とても太刀打ちできません。どうにもなりません。江戸の街も大阪の街も焼け野原ですよ』
『どうすればよいのや』
『列強諸国と同じ軍艦を造り砲台を築くことです』
『軍艦は造れるのか?』
『いまは造れません。外国から技術を盗み取り、学ぶしかありません』
『それまではどうするのや』
『外国から買うことです。攘夷では話しになりません。開国しか道はないのです』
『しかし攘夷は恐れ多くも帝(みかど)の御意志にあるぞ』
『姉小路卿、攘夷を強行すれば必ず戦(いくさ)になる。戦になれば、万民は塗炭の苦しみに陥る。帝は嘆かれますぞ。それだけではない。わが国は滅びますよ』
『勝先生、あまり脅かされては困ります。なに、わが国は神州です。外国の軍艦など神風で吹き飛びますよ』
桂小五郎が話題を変えようとした。桂はすべてを承知していた。しかし公卿にあまり知られては具合が悪い。日本を神州と信じがむしゃらに尊皇攘夷を叫び続けてもらわないと都合が悪いのだ。姉小路は真剣だった。機関の構造、速力、気象、天体観測、測量、操船、砲術、海軍士官の養成などあらゆることに興味を示し勝を喜ばせた。大砲を試射して見せると『恐ろしや』と身を震わせた。
この航海で、攘夷の何たるかを知った姉小路の視察の成果は予想以上に大きかった。朝廷から幕府に対し海防の強化、軍艦大砲の整備に当たるようにとの大阪湾警備に関する御沙汰書が下った。



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