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2014年9月29日

akira's view 入山映ブログ 阿南大使

 25日内外情勢調査会の講演会で、阿南惟茂前中国大使の中国情勢についての話を聞く機会があった。2006年の退官以来あちこちで講演行脚を続けられているようで、すっかり場慣れした様子で、滑らかな語り口でおよそ一時間半、聴衆を飽きさせなかった。外務省内の所謂チャイナ・スクールの重鎮として、かつてはマスコミに「中国べったり」と批判されたことが念頭にあるのか、講演の中味は中国の虚像とも言うべき点、つまり過度にプレイアップされた中国のイメージの否定が中心であった。

 中国国家統計局の公表数値は全く客観性に欠ける。中国にとって「こうありたい」数字の公表が中心であることを忘れてはならない、とか、国威発揚手段として全力を傾注したオリンピックだったが、そこに中国国民の姿を見ることは余りにも少なかった。かえって空々しさを感じた向きが多かったのではないか。むしろIOC会長が述べたように、世界が中国の姿を現実に見たと同じく、中国も世界の現実の姿を見た、というほうが大事ではないか。また、オリンピックに4兆円余りの投資がなされたというが、ヤンキースタジアムが何十個も建てられるオカネがどこに使われたのか、おそらくは半分以上はどこかに消えているのではないか。中国の外貨準備高1.8兆ドルを単純に日本の1兆ドルと比較してその大小を比較するのは当たらない。中国のそれは外貨国家一元管理の下に吸い上げられた数値である。7千5百万人の党員を擁する中国共産党政権が、一朝一夕に崩壊するはずがない、という議論があるが、ソ連の崩壊を経験しているわれわれとしては、にわかにそのような安易な観測に同調する訳にはゆかない。

 こうした断片的な事実を巧みにアレンジして、中国の脆弱とも言える一面を描写してゆく。同大使が最近の学士会会報(872号)に講演会の記録として寄稿された内容と同工異曲であるといってよい。在野の評論家の言説に較べれば、これまで要職にあって対中外交の先頭に立っていた方のコメントだけに、より重みを感じた向きも多かったと思う。しかし、中国経済がどれほど早く行き詰まり、あるいは破局を迎えると思うのか、それはどのようにして起こるのか、中央集権から地方分権への動きはあり得るのか、また、どのように起こるのか、中国西部の少数民族問題との関連はどうか、それに対する党中央の動きはどうか、といった問題についてはほとんど触れられなかった。大聴衆を前にしての講演はそうした問題に触れるのに適当な場ではないことを割り引いても、いささか消化不良の感を免れなかった。さらに、フロアからの質問を取らず、代表質問という形で時事通信(この講演会は同社関連団体の主催)の部長職が質問をしたが、これが麻生・小沢両氏の対中国スタンスいかに、とか、最近の国際金融危機と中国経済の関連は、といった、およそ焦点の定まらないものものであったこともその一因であったかもしれない。

 中国問題に限らず、国際情勢に関してその衝に当たっていた人から核心に触れた情報を得ることが余りにも少ないように思う。これは外交問題に限らず、内政一般についても言えることだが、時として巷間に流布するのは、暴露的な反体制の意図や、キワモノ、あるいは怨恨とは言わないまでも告発的な色彩を帯びているものがほとんどなように見える。守秘義務とか、与える影響の大きさからして、ある程度はやむを得ないと思うが、本来マスコミの使命というのは、核心に近い情報を取材公表することにもある筈である。同大使が講演の中でも述べていたように、「中国の崩壊が始まった」「本当にヤバい中国経済」「中国沈没」といったタイトルが書店には溢れかえっている。かつて読売新聞社会部が「会長はなぜ自殺したか」「会社がなぜ消滅したか」(いづれも新潮文庫)などで鋭く金融腐敗、大蔵(当時)、日銀の業界癒着ぶりをえぐり出したような、質の良い報道が最近余り見られないのは残念だ。

 情報の氾濫の中にあって、質の良いそれを発掘するのには読者側のメディア・リテラシーが要求されるのはもちろんだが、「めきき」の役割を果たす存在を国民が創り上げる、あるいは認識を共有することも必要だ。おそらくその役割が期待できるのは民間の非営利組織をおいて他にはないだろう。鈴木崇弘氏の「シンクタンク2005」工藤泰志氏の「言論NPO」加藤秀樹氏の「構想日本」など、幾つかの試みが活動しているのは心強い。単なる知識教養番組としての講演会や朝食会を超えて、阿南大使のような人材がそうした組織のリソースパーソンとして論陣を張る日が近いことを望みたい。

2008年 09月 25日



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