2014年10月17日
akira's view 入山映ブログ テヘラン市長
外務省の招きで来日しているテヘラン市長ガーリーバーフ氏の講演を外国特派員協会で聴いた。同氏は次期大統領の有力候補であるのみならず、現アフマディネジャド大統領に対する批判的なコメントでも知られている。先のアラグチ駐日大使(3.14「イラン核開発」)とは異なり、通訳を介してのペルシャ語による講演であった。
講演そのものは大都市市長としての一般論と問題意識に留まり、アラグチ大使のような刺激的なものではなかったし、質疑に移ってからのコメントも、イランの当面する課題は経済と開発にあり、雇用とインフレが最大の問題点だ、といったあたりさわりのないものが多かったが、なかには興味深いものも聞かれたので、それを中心に紹介しておきたい。
聴衆の最大関心事はもちろん核兵器問題にあり、質問者の多くも繰り返しその点に集中したが、これについては、北朝鮮を暗示しつつIAEAの枠内に留まることが重要である、といったさして面白みのない回答に終始したが、インドに対してダブルスタンダードを取る米国に対する批判と受け取れる部分もないではなかった。微温的な回答に少しじれた質問者がイスラエルのイラン核施設攻撃計画をブッシュ大統領が思いとどまらせたことに言及し「貴方はそれについてブッシュ大統領に謝意を表するか」と挑発したのに対し、「一体戦争好き(war monger)はどこのどなただったでしょうね」と答えたのもその一例だ。
それに比べて、イスラエル国家の存在を容認するのか、という質問に対しては、これまた直接にではないが、「宗派の如何を問わず、いかなる人間にも生存して良い生活を営む権利がある。」とした後で、「いかなる人間にも、(ひとつの)故郷に帰り、正当な選挙によって国家と政府を建設する権利がある。」と述べ、パレスチナ、イスラエル両国家併存の論理を否定したのが注目された。中東地域が極めて微妙(sensitive)な地域であることを強調すると共に、イラン抜きでは重要課題は何も解決しないし、大国が地域的勢力の利害を認識しない限り、中東に永続的平和はあり得ないともコメントした。
一方、当然のことながらアルカイダに対してはこれを容認せず、そのような勢力と交渉をしようとしている政府の存在(これが米国のことか、その影響下にあるアフガニスタン政権あるいはパキスタンか、については明言を避けた)は許しがたいとも述べた。アフマディネジャドとの意見の相違についての質問に対しては、多様な意見の存在はどこにも見られることだ、といなすと共に、誰が大統領になるか、というのは重要な問題ではない、として、イランの基本的な政治スタンスは共有されているとの認識を示したのも(これまた当然とはいえ)興味深かった。
駐日大使の講演に際しては、随行した大使館員たちが極めてオープンな態度で参加者たちと会話していたのに比して、本国からの一行と見られる五・六人のグループが全く自分たちだけの会話に終始し、まだ国際的な聴衆と自由に交流しようとする態度が見られないのがやや「違和感」として会場に存在していたことも付記しておこう。(もしかすると単に外国語能力の問題だけかもしれないが。)この旧くて若い国が国際政治に溶け込むのにはしばらく時を要するかもしれない、というのを垣間見させるエピソードではあった。
2008年 10月 17日