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2014年12月17日

藥、一服(その4)荻野彰久 荻野鐵人

「そうだが、今での若いものは怖いのん、俺はもう腹が立って丸太ん棒か何かで、倅の頭を、一つ、グァンとやってやりたかった、だが、一人しかない息子、死ぬと困るでのう、あっはっは」と、彼は、日焼けした黒い大きな顔に白い歯を見せながら笑って、
「そうは云っても、のん、実際倅の云うことは、手前の子だから云うじゃあないが、筋がピーンと通っているでのん、のん先生」と、一度、眼を丸くして見せて、大きなからだを ゆすりながら笑った。
ウィスキーの古瓶につめた焼酎を、懐中から出した彼は、天井の電燈に透かして見て、
「ある、ある、未だ充分あるぞん、先生もちいとどうだん、ちいとのん」と、斯なことを云って、茶飲み茶碗を火鉢の隅へ、ジュッとあけて其れを手に持った儘、
「俺はのん、倅にそう云ってやっただが、あの子は、手前一人の嫁じゃあないとのん」と、云って、続けて二三杯あおっていた。
「手前一人の嫁じゃないって ?」と、私が怪(け)訝(げん)な顔をすると、
「それはのん、俺が考えたこったが、一つ出来るだけ別嬪を貰ってだ、それをこう息子と俺の二人の嫁さんにしちゃあどんなものかとのん、――いかんかのん、若い先生にこんな話しちゃあ、いかんかのん、えゝわのん、話だでのん」と、火鉢の炭火を見ている私の顔を、横から覗き込むようにしながら、こんなことを云って、
「それが運よくもって来いという娘さんがあってのん、今、里へ逃げ還(かえ)っているがのん、顔と云い、背丈と云い、丁度のん、あるもんだのん、それで俺は腹を決めて貰ったという訳だがのん、そう云っちゃあ何んだが、あんな娘は村に二人とないぞん、ねエねエないとも、のん」
「先生は知らんかのん、それ、豊橋の藤城さんの娘だわのん」
「あ、あの洋品店のかね?」
彼の緩(ゆっ)くりした調子(てんぽ)で話すのを聴いていると、私の気分もいつになく緩くりした気分になっていた。



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