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2014年12月18日

藥、一服(その5)荻野彰久 荻野鐵人

「そんなえゝ娘を、息子の嫁として貰ってやってだ、のん、それから俺はのん、のん、婆々を抱いていても、十八の娘だと想うだわのん、のん、眼をつぶって、これがあの娘の手で、これがあの娘の足で……とこう云う具合にのん」と、彼は人形遊びの幼児が、人形でも寝かしつけるように、火箸を一本横に持って、片手でそれを愛撫するような真似をしながら、盲の顔をして云った。それからまた、突然眼をあけて、
「あ、先生、いかんかのん? そんな話しちゃあ、いかんかのん ? 先生が怒るならこの話はグメだ、俺はのん、こう見えてものん、先生をとても思っているぞん、それでだ、俺は誰にも俺のこの腹の中は云えん、それが先生には云える、と、こうまァ思っているがのん、その先生にだ、蹴られてしまっちゃあ俺は一体どうなる、のん、そりや俺の息子は、先生に助けて貰ったぞん、だがのん、今夜は俺のこの本当の腹の中を一つ、先生に聞いて貰おうと、こう思ってのん、(突然大きな溜息をついて)、俺は淋しい男だぞん、そう云うけどのん、(と手甲で鼻汁とも涙とも知れんものを一寸こすって)、そりや、俺は喰えるよ、温室もやってる、田畠も一町位はある、何も云うことはないぞん、だがのん、人間ちゅうものはのん、喰えるだけじゃあいかんのん、女房はあの通り二十年以上も寝たっきりだし、のん、……じゃあ、俺は一体どうなるちゅうだのん、淋しいぞん、倅が赤ん坊の時分から俺は、野良仕事を手前独りでやってさ、家に帰って乳をつくって子供に飲ませてさ、夜、女房が痛い痛いと云えば、それでもと思って俺はのん、一晩中でも、さすってやるだ、すると、女房の奴、あんたも疲れているで、えエえエと云うけどのん、そんなとき、女房の足をさすりながら、あアあア、これが丈夫なら、俺は何んにもいらんとのん、田もいらん、畠もいらん、銭もいらん、とのん、すると女房の奴は言うだ、あんたは気の毒だ、可愛想だとのん、俺は云うだ、そんなこと言うなとのん、そんな時、俺は女房の奴に涙見せまいとしてのん、電気を消して黙ってのん・・・・・。子もいゝけど小さい時の話でのん。大きくなると怒るぶんでのん、のん、薄情なもんだのん。何の彼のと云うけど永年連れそうた女房が、一等味方だのん、その女房に病まれると、云うに云われぬ淋しいのん、それに年をとるとこう気が弱くなって、洟(はな)ばかり出やがってのん」と、彼は仕切に鼻水を拭いていた。
「それにのん、他人様に、病みました、東京へ行って太陽を習って脳が変になりました、女をやたらに欲しがりますと、いっくら何んでもまさか手前の息子の悪口も云えんしのん」



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