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2015年3月19日

サーカスの親方(2)-9荻野彰久 荻野鐵人

適当な言葉が思いつかないのか、幸島が口をもぐもぐさせていると、佐々木は
「お前は絵を画くためにわざわざ医科へ入って二年間解剖学をやったそうじゃないか、論理はお前の得意とするところじゃないか、それとも何か、おめエッ」と佐々木は顔を近づけて来て幸島の顔を調べるように見入った後、
「そうだ、お前、女にふられて、女がないんだろ、そうだ、いやきっとそうだ、あっははは、こいつ、女が欲しいんだ、それ、それ、あっははは」
すると幸島は突然、大きな声で、
「ぼ、ぼ、ぼくは、と、とっても美しい妻がいるんだ!キ、キ、キサマに、見せてやってもいいぞ!」と吃りながら云うと、気の静まるのを待って、又同じことを、今度は吃らずにゆっくりゆっくり繰りかえした。
(しめた!) とばかり佐々木は、音が聞えるほど自分の両手を打って、 (あ、そおか) と小声で眩いた。
「お前、美校だと云ったね」と佐々木は云った。「いや、そうそう漫画家だと云ったっけ、つまり芸術家っていう訳だね、それで解った。君は絵がうまくかけなくって、それで悲しいのさ、つまり、アンタの野心に重過ぎるという訳さ、<充足を知らないこころ>か、あはははは」佐々木は嘲笑するように、喉の奥まで見せて嗤った。
「俺が?」幸島が顔を近づけた。が、その拍子に幸島は転びそうになった。
「――え?」と幸島は、佐々木の顔に口を近づけて云った。
「そうさ、アンタはですナ」と佐々木が云った。
「仕事に、芸術に、生命に、愛情に、出世に、生活に、金儲けに、いやこの人生に!アンタは充足していないのだ、自分では満足しているつもりでも無意識の暗い底で、どうも未だたりないものを感じる。だから悲しいのさ、そこから悲哀や哀愁がジメジメ湧いて来るのさ、ハハハハ」
「人間というものは――」幸島は湿っぽい声で穏やかに云った。



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