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2015年3月20日

サーカスの親方(2)-10荻野彰久 荻野鐵人

「君だってそうじゃないかと思うけど、お互いの肉体的環境は、父母から来る遣伝で既に決ってしまっている以上、そして、君やぼくのこの性格が、その肉体から生れる以上、ぼくたちが生れ落ちる以前に、ぼくたちの『運命』は既にお膳立てが出来てしまっているんだ、そこへ我々は生れ落ちただけなんだ、だから」と幸島は、言葉に熱を加えて云った。
「だから人間は、固いコンクリートで出来ている冷たく暗い人生というトンネルの道を、生物学的『本能』によって、鞭打たれながら、歩かされるだけなんだ、ぼくはそう思う」
幸島の声はとぎれた。
「何?」佐々木の激しい語調が訊ねた。
「偉そうに!シヨーペンハウエルみたいなこと、云うじゃないか……、いいよ、もっと云って見ろよ」
「ショウベン……」
「小便じゃない、ドイツの哲学者、ショーペンハウエルだ。ま、いいから次を云って見ろよ」
このときだった。
「きーよか!きーよか!」と祖母の声がした。
塀の外で人声がしていたので妻が出てみたら、ぼくが二人の話を暢気そうに聞いていたと、妻は泣き出しながら、うらみごとを云っていた。
ところが、ぼくがそこに立っているとは気づかない祖母は塀の外側で、佐々木らしい声がし、妻、清香が、塀の内側に立っていたので、本当に慌てた、と笑っていた。――これ、は後で家のなかへ入って、落ちついてからの話である。
若し、このとき、妻と祖母が、彼等二人を眺めていたぼくを、手を引っ張りながら無理矢理に、開かれた門のなかへ引き入れなかったならば、彼等の上に、あんな不幸は起らなかったのかも知れぬ。
それから五時間も経たないうちに、ぼくはそれを聞かねばならなかったが、ぼくがうちのなかへ入ってからの彼等二人の会話が、直接の原因だとばかりは云えない。そこには因果律に従った運命が彼等をそのように導いていったのかも知れぬ、とぼくは思った。



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