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2015年4月7日

サーカスの親方(4)-3荻野彰久 荻野鐵人

サイダーで割ったラム酒をもう少し飲み、短く切り込んだ爪を見ながら焼豚をつまんで食べた。すると、急にそこらが痒くなった。耳朶の下、首、胸、腰の周り、虫が這っているようにムズ痒い。痒い!と思うと、そこらが余計痒い。アッ、痒い、痒い、と指で掻くと、そこらがブクブク膨れて来た。ひどいのは軟かい部分で、内腿と乳房から下の鳩尾(みぞおち)のあたり、ぼうっと丘疹の中心部が幾分白っぽく、周りが赤い。一つをきゅっとつまんで見ると、色が消える。痒いわねと、がりがりと掻くと、掻いたところどころ白い肌に、桃色の丘疹が豆を撒いたようにブクブク現われた。正子は我慢のない幼児のようにすっぽり裸になった。そこらを、ぱたんぱたん小さい手の平で叩いて押えた。
ガタン!音がした。足音がした、と思った。着物を掴んで急いで前を隠すと、戸口へ視線を走らせた。男の怒声がしたと思ったが、何の音も聞えなかった。足音もしなかった。ガタンとしたのは二階だった。風が吹いて二階の窓を鳴らしているらしかった。急いで着ると二階が気になり出した。黒い男の首が、窓からニュッと出ている気もする。怖(おそ)ろしかった。眼をつぶった。戸口を見た。耳をすました。窓という窓に眼を据えた。外に、夫が佐々木と自分の事で口論していることは彼女はしらなかった。何だ自分の家じゃないか。彼女は窓を閉めに、二階の階段を恐る恐る登って行った。



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