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2015年4月20日

サーカスの親方(5)-6荻野彰久 荻野鐵人

山上の一軒家、そして樅や松の巨木が、谷間を蔽いかぶさるように繁り、ところどころ岩肌が樹間に透いて見える。あたりは静寂と霞と陽炎(かげろう)に包まれている。そして、空には雲、遙か下の谷底の人間は虫のように小さく見える。そんな高い山上の一軒家。その二階の広間で、白く顎髭を伸し僧衣をまとった老人が、左の掌の中に握っているものをキュッキュッと何か背中のゼンマイを巻いている。階下から、階段の手すりに片手をかけた老婆が顔を二階へ向けて声をかける。
「あなた、何をしていらっしゃるんですか? 柱時計のゼンマイなら、先刻、わたしが巻いたばかりですよ」
二階から老人の太い声は答える。
「柱時計のゼンマイではない。本能のゼンマイだよ」
階下から老婆が云う。
「いくら本能のゼンマイだって、アナタ、そんなに強く巻けば、切れてしまうじゃありませんか?」
二階の老人は応かないで、掌の中の生きものに、キュッキユッ、ゼンマイを巻きながら云う。
「いや、これくらいしっかり本能のゼンマイを巻いて置かなけりゃ、生物が進化して、人間の段階になり、知性だ、理性だ、と、屁理窟を並べた日にゃ、子孫が絶えてしまい、折角の『種の保存』というわたしの大目的が、台なしになる恐れがある――」と。
幸島はふざけて『神』と名づけたのだったが、この絵のリズムはよかったが、芸術に大切な批判精神が欠けている点を彼は嫌ったものだった。



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