2015年4月27日
動物風景-1 荻野彰久 荻野鐵人
精神病理学者O博士の書かれた或る論文を、手や足を動かしてやらなければならないこれといった仕事を持たないうえに、最近出産のために妻を失くし、いっそう暇をもてあますようになったぼくは、晩くなった夜の時間にたった一つしか取っていない夕刊のなかで読んだのち、そのまま気持のよい布団の中に横たわり眠ってしまえばよかったのに、それからまた例によって下らない書物などを引っ張り出してきて、夜っぴて読んだのがいけなかった、とロミオは私に話した。
月のよい夜の十二時ごろだっただろうか。読んでいた本の頁から顔をあげると向い側の倒れかかった塀の下で夫婦ものらしい二匹のネコが長い時間のあいだ下になっているメスの首毛を噛んだまま抱き合い、動かずじっとしているのが窓ガラスを通して見えた。
眺めているうちに何か奇妙な気持にぼくは襲われた。ただ単にそういう気分になっただけでなく粘液性に富んだ分泌物が、恐らく他のホルモンを出す器官と同じように、無意識的に開けていたらしい口の右隅から細い糸を引いて流れ出していた。