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2015年4月30日

動物風景-4 荻野彰久 荻野鐵人

会社に忘れてきた保険証を思い出したが、それをいまこの夜中のきわめて緊急な時に取にいく暇はない。他の皮フのうえや足を調べる心の余裕などその時はなかった。裸のまま扉を押して表へ出た。

風に乗った雪が斜めに降っているのが街灯の光で見えた。チェッ! もうとっくに春がきたと云うのに冷たい雪が降っていた。

古新聞紙に包んだ、生き続けていくために必要な栄養が入っているベントウ箱を、冷たい風や雪を避けるため、屈(かが)めた腰の後ろで手に持った労働者が走って行く。

昨日と同じように始まろうとする夜明けだった。こんな早い時間にいつもの掛かり付けの医者は起きてくれるだろうか。

いま道の端を走って行ったベントウ箱の男は経済的機械として、ぼくはいわば一種の生理的機械として走って行くのだと考える間にも、ぼくの体内に入った毒素は中毒症状を分秒毎に発現し続けているのかも知れなかった。

運命のような二本のレールの間を、ぼくは走っていく間にも、すぐ起きてくれないかも知れない医者のことが、心を絞め続けていた。



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