2015年5月1日
akira's view 入山映ブログ 孫引き
「孫引き」というのは「他の書物に引用されたものを、原典にさかのぼって調べることなく、そのまま引用すること」(広辞苑)で、学術的な論文などでは厳に戒めるところであるのみならず、これが一カ所にでもあれば、その論文の価値そのものが否定されるくらいのものだ。要するに、ある情報をもとに論議をする場合にその根拠になる情報そのものがあやふやでは論議に価値がない、ということだ。
フランス在住のジャーナリスト土野繁樹氏が「時評」誌7月号に寄稿した「オバマの告白・G20の舞台裏」という記事の中で、氏がシュピーゲル紙の記事をもとに書いているG20についての内容があまり面白く、かつ日本のジャーナリズムには(小生の知る限り)報道されなかったエピソードなので、あえて孫引きで内容を紹介してみたい。
ロンドンのG20は、基本的に米英対仏独の対立が顕著で、特に現在の経済危機を引き起こした元凶がアングロ・サクソン型の市場経済であり、厳しい金融規制についての合意がなければ退場もやむなしとするサルコジ大統領の強硬姿勢がつとに報道されていたという。特にヘッジ・ファンドと、その隠れ家であるタックス.ヘイブン(推定1115兆円)規制は絶対の要件だというのが仏・独の立場だったようだ。会議が正午にさしかかった頃、メルケルガ金融市場規制強化を提案、中国がこれに同調し、ヘッジファンド廃止にまで言及する。盛り上がりかかったところで麻生首相が「規制や監視はいそがないほうがよい」と発言。これで議論は又振り出しに戻ったという。そして正午過ぎ、サルコジが「タックス・ヘイブンのリスト公表について、明記するのか、しないのか」とブラウンに迫り、これに各国首脳が賛否両論を唱えて介入。決着がつかぬまま午前のセッションが終わる。
昼食を挟んで議論が続き、今度はG20草案中の「5兆ドルの景気刺激策によって1900万人の雇用が送出されるというのは楽観的すぎないか」と胡錦濤が指摘。ブラウンの回答に対して、数字の根拠を巡って、再びインド、オーストラリア、ロシア、韓国が喧々諤々の議論を展開。収拾がつかなくなりそうになったところでそれまで沈黙を守っていたオバマが「この問題にあまり時間を費やすべきではない。数字を遣うのなら、ソースを明記してはどうか」と発言。結局1900万の数字は削除されることになる。
午後のセッションでは、船頭多くしての観さえある四分五裂の論議の後、再びサルコジが「タックス・ヘイブンはどうなった?」と蒸し返す。ブラウンは「OECDが今日公表することになっている」と応じるが、「G20の中で公表しない限り無意味だ」とサルコジは譲らず、再び激論が繰り返される。OECDが公表する、という文言をG20が明記する、という妥協案で収まりかかった頃、香港とマカオがタックス・ヘイブンに含まれることに反発した中国がこれを非難。再び議論は泥沼化するかに見えた。ここでオバマが再び「この問題はもう少し大きな観点で議論しよう」と、中国・フランスを個別に説得。共同宣言の文言に同意を取り付ける。(この部分はInternational Herald Tribuneにも見える。)
会議の閉会直前ベルスコニが「オバマに敬意を表する。経済危機はアメリカ発だが、あなたはこれに取り組もうとしている。成功を祈る。」と発言。これに対してオバマは「イタリアの友人が指摘したように、危機はアメリカから始まった。そのとき私は大統領ではなかったが責任はとる。」と応じ、満場は静まり返ったという、アメリカ大統領が自国の罪を告白している!
こんな臨場感ある国際報道を日本の新聞でも読んでみたいものだ。やれナントカ派閥の領袖が自派幹事長の更迭に反対だとか、誰それさんが麻生降ろしを画策しただのという「臨場感」には食傷気味だ。
2009年 07月 02日