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2015年5月1日

動物風景-5 荻野彰久 荻野鐵人

そんなことはない。いつもの掛かり付け医は、ぼくの音声も顔もよく覚えてくれているだろう。いまぼくが行こうとしている流川先生の看護婦さんは、器量よしで優しい娘だ。他人の重い患者のことをまるで自分の肉親のことででもあるかのようにすぐ顔を青くする看護婦さんだ。

幸子がハシカのとき熱が高いから一晩ついていてあげましょう、と言ってくれたけれども妻が死んだ直後でもあり、それに一人者のぼくのところへなど、たとえ看護婦であっても女は女で、女の出入りは近所の目に触れるだろうと断った。

流川医院の玄関まで走っていったぼくはガラス扉を叩いたが起きてくれなかった。ぐんぐん時間が流れ血の流れに乗った毒素は顔や頭にいや全身を駆け巡っているのかも知れない。

そのときだった。ぼくは唖然としてしまった。ガラスのはまった扉の内側から降りているカーテンを背景に鏡に映った黒い毛に被われた動物の顔をぼくは見た。犬の顔だ。ぼくはびっくりした。密生した毛のなかから先の尖った赤い小さいペニスの先を見せている犬だ。健康なときにぼくはコリー犬が好きだった。こんなとき普段その人がすき好んでいるものに変身するかのようにぼくの顔はコリーに似ていた。

いくらぼくでも多少は羞恥心も誇りもある男だ。そのとき人の足音が聞えた。ハッとぼくはすばやく



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