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2015年5月5日

動物風景-6 荻野彰久 荻野鐵人

時間はぐんぐん経ちもう夜はすっかり明けていた。ぼくは我が家へと急いだ。時間におくれまいと走っていく早出の勤め人の目にぼくは身を曝(さら)したくなかったのだ。いきなりぼくは子供たちが寝ている部屋の中へ飛び込み、うしろの障子をぴしゃりと締めた。

早鐘のような心臓の打つ音が自分の耳にも聴えた。急ぐあまり烈しく締めた音で目覚めた上の女の子がキャッーと泣き出し、「オトウチャン!」とぼくの名を叫びながらぼくの傍を離れて部屋から飛び出して行くのが見えた。

そうかと思うと忘れ物をしたように恐る々々再び開いた障子の隅から入ってきた幸子はまだ眠っているままのけい子の手をもぎれるほど力一杯引っ張って行く。幼い幸子は死んだ母親の代りをしているのだと思ったぼくは、「お父さんはここだよ。幸子」、とゆっくり近付いていく。

まだよちよちのけい子の体を腹の上にかかえるようにして、幸子は後ろ向きに急いで出ていく。もうお父ちゃん! と叫ぶヒマも惜しむかのように。「幸子、幸子、お父ちゃんだよ」と、ぼくが一歩一歩ゆっくり優しげに近づいて行けば行くほど、幸子には重すぎるけい子の体を抱えた幸子は、一センチでもすばやく父親から離れようとするかのように、ぼくの顔にすえた視線のまま後退りしながら、「犬は怖いよ!怖いよ」と離れて行くのだった。



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