2015年5月8日
動物風景-8 荻野彰久 荻野鐵人
幸子、危ない! 大人のぼくには分るのだ。素早くぼくは、安全感を子供たちに抱かせるために、子供たちの視ているなかをゆっくり、後退(あとずさ)りながらガケが崩れるような深い溜息が独りでに咽の奥から出てくるのを感じた・・・・・・・・
考える力もなく決心もつかず疲れ切って何となくけだるく、ちょっとでも立ち止まるとすぐがっくりつんのめってしまいそうで、ぼくは惰性的に足を動かしているに過ぎなかった。
方角も分らず場所も知らずぼくはさ迷い歩いた。白い雪の降る街はどこまでいっても暗い夜の底に眠っているように静まっていた。
ウイスキ-はもうすっかりさめていたが尚、酔払いつづけているように、空腹に中毒した足取りでジグザグ歩いていると、独りでに、両(ふた)つの瞼が重ってきて、がっくり首が下がり、意識が消え入りそうだった。
無理にそれをはっきりさせようとすると、食いものなら腕づくでも取って喰いたい、何かそんな兇暴な考えが、ひっきりなしに意識のなかを走り廻っているのだった。
それからいつのまにか鎖が垂れているぼくの首に、区役所から出している野犬狩の投げた細い針金の輪が嵌ったのにも、ぼくはハッキリ気付いたわけでもなかったけれども、いつか毛に被われたペニスを人目に目立たせないようにするために、腹ばいに歩いていたぼくは、首から垂れ下っている鎖のまま、金網で張り巡らされた犬殺しの檻の中に入れられていた。