2015年5月19日
動物風景-15 荻野彰久 荻野鐵人
「だって、キミ、殺されるまでは、ぼくたちの命じゃないか、粗末にしちゃいかんよ」とぼくが無骨に云うと、スピッツ嬢は急に黙り込んだ。寝入ったのだろうと思っていると、しくしく彼女は泣き出した。
「うるっさいナ」と、ぼくは云うと、
「コリーさん、アンタ、死ぬこと、悲しくないの?」と、スピッツ嬢がまた話しかけるから
「馬鹿! 何が悲しい! 死を怖れるのは最も下等な動物の本能だ、生きているものが死ぬのは当り前じゃないか」とぼくが無愛想に云うと、
「でもねエ」と、スピッツ嬢は溜息をつき、
「死ぬことって、どういうことなのかしら」
「バカだネ!キミは。物理化学的法則に従ってカンタンな元素に還元されることじゃないか」
「わたしは、そんなことじゃないと思うわ」
「じゃ何だい。はやく眠れよ。夜が明けっちまうじゃないか」
「どうして、アンタ、そんなに眠りたいの? 眠り病にお罹りになったの?」
「だっていつまでも起きていると風邪を引くと言ったじゃないか。肺炎にでもなってごらん。高貴薬だ、いい薬だとまた医者にうんとぼられるぞ!」
「ヘンナひとね。人の心も知らないで。ほんとに。わたしはもっとアナタとお話がしたいのよ」とスピッツ嬢は白い体を檻の金網にすりつけて云った。