2015年5月21日
動物風景-17 荻野彰久 荻野鐵人
夢のなかに餌ナベをさげた例の眼の白味が濁っている老婆が金網の前に姿を見せ、一度ぼくの餌の入れ物の中へ入れたのを、また元通りにナベのなかへ戻しているのがぼんやりした光のなかに見えた。
「何故かってかい?」と老婆は独り言をまるでぼくに秘かに知らせるように言うのだった。
「だってお前がこの抑留所のなかへ収容されたのは三日前だろう? だからさ、今日はお前を迎えにきてくれる人がない以上、処理場行きだとさ、だから勿体ないのだとさ」と言ったとき瞼の裏側にまだ喰物の映像が消え去らないままぼくは夢から目覚めた。
「わたし、メアリという名よ」と声がしたかと思うと、
「アンタ、ちょっといい顔形ネ」とスピッツ嬢は眠っていなかったのか金網に顔をくっつけて云った。
「アンタはコリー犬でしょ? ネエ、アンタの名前、教えてよ」
「ぼくは名前なんてないよ、早く寝ろよ」
「いいじゃないの、意地悪っ!ネエ、教えてよ、いいじゃないの、ネエ」
「うるさいネ、ぼくはロミイと云うのだよ」