2015年5月23日
動物風景-19 荻野彰久 荻野鐵人
スピッツ嬢も黙り込み、ぼくも黙って、檻の地面で体を曲げ、じっと眠っている振りをしていた。しばらくすると、どこかでガリガリ、ガリガリと音が聴えたと思った。
「God(救世主)!」とぼくは飛び起きた。
ライオンが巌(いわお)にでも昇るようにぼくは後脚を檻の底につっぱり前脚を金網にかけて、あたりを眺めた。誰も居なかった。何も聴えなかった。シンシンと雪の降る音。ぼくは白く降り積った外を眺めた。50センチほども積って来て、雪明りが夜明けのように、ぽおっとあたりを照していた。静かな夜だ、とぼくは金網から前脚をおろした。
「ワタシよワタシよ」と小さい声が囁いた。見ると向いのスピッツ嬢がいたずらっぽい子供っぽい顔でこちらを覗いていた。
「何だ、お前か、もう眠りたまえ、夜が明けたら殺されるのだから、今のうちに少しでも寝ておきたまえ!」とぼくが寝転びながら云うと、
「意地悪!」とスピッツ嬢は例の媚を含んだ眼を向け、
「ロミオさん、アンタ、ワタシ嫌いなの?ワタシと話すの、お嫌いなの?」と訊くから、
「嫌い嫌い!ぼくら男はナ、実質が伴わない恋は好まんのだ!」と笑いながら云うと、「あら!実質と申しますと?」ときた。