2015年5月26日
akira's view 入山映ブログ JR
時事通信社の主宰する「内外情勢調査会」の例会に友人の招待で出席。JR東海の葛西敬之会長の「新しい高速鉄道の世紀」という講演を聞く機会があった。この会の例会には出席したことがないのでいつもの講演会の様子は解らないが、とかく自社・産業の自画自賛に終わったり、評論家が政治の現状を憂えてみたり、経済の行方についてしたり顔の占いもどきが多いこの種の講演会にあっては、やや異色ともいうべき内容であったように感じた。
もちろん葛西会長も、「JR東海の創業の使命」というイントロの部分では、いかに本来東海という地域会社と無関係な巨大債務を発足時に背負わされ、にも関わらず着実にその支払いを続けているか、みたいなコメントをしっかり挿入されていたし、「JR東海のユニークさ」「東海道新幹線の発展の軌跡」のあたりでは、巧まずして自社PRもされていたが、この講演の真骨頂は、「超電導リニアによる東京名古屋間のバイパス建設」と、何よりも東海道新幹線の再新型車両である「N700-Iと超電導リニアのトータルシステム輸出」にあったといってよいだろう。
何、それだって形を変えた自社宣伝に過ぎないではないか、という向きもおありかもしれないが、一民間会社が、工費数兆円を超す国家的プロジェクトを、千万人といえども吾行かん、という決意をもって主張する、というのは、かつて「鉄道時代の終焉」という常識を「レールを枕に討ち死にする」という大時代的な表現で打ち破った十河信二氏を彷彿させるものがある。良き鉄道魂健在というべきであろうか。さらに、鉄道技術輸出に当たって仮想競争相手と目される欧州の高速鉄道のパフォーマンスと比較すれば、どの点においても日本製品が優れている、と昂然と言い切るあたり、最近景気の悪い話の多い経済界で、ひさびさに溜飲の下がる思いがあった。
やれ行き過ぎた自由主義経済の是正だ、エコビジネスだ、顧客志向のCSRだ、と確たる内容も伴わないまましたり顔に警世の言を唱える輩が横行する中で、はっきりした意味内容をもって次の世紀を見据えた発言をする経済人というのは貴重だと思う。もちろん東京名古屋のリニアにしても、実現までには一山も二山も越えねばならないだろう。外国への鉄道技術輸出にも、果たして安全な運行に不可欠なソフト面のエトス、あるいは職人のモラールのようなものが現地にあるのか、という不安もある。にも関わらず、葛西会長の意気は買いたい。日本の産業界が、第二、第三のリニア計画と同様の壮大なプロジェクトを輩出するようになることを期待するからだ。
2009年 08月 06日