2015年5月27日
動物風景-22 荻野彰久 荻野鐵人
「ウワン、ウワンとぼくは吠え立てたのさ。それでも塀の下の夫婦ネコどもは中断できないのか行為を続けているのだ。ぼくはシャクにさわったから<俺だって一つ!>とポオンと右の前脚で扉を蹴ってみたのだ。
するとどうだ。扉がぼくの期待を裏切って開くじゃないか!うれしかったね。夫婦猫は逃げ去ったけど。何か魔性のものに魅せられたようにぼくは表へ出たのさ。いろいろなところを冒険して歩いたのだ。が結局それは今にして思えば、死へ向かっての二本のレールに挟まれた、ぼくたちではどうにもならない道を真直ぐに進んできたような」
「でも、ワタシ、アナタの言うことがよく分らないわ」
「なにが解らないのだい?」
「アンタが、さっき云った『表へ』と云うことがよ」
「分らなくてもいいのだよ、いや、分らないほうがいいのだよ」
「あらどうしてなの?」
「キミはなかなか理屈っぽいのだナ。それはネ、不意に人間を襲う交通事故。いつ襲って来るかも知れない癌。小さい個人的頭のなかに波立った不意の『精神異常』がもたらす戦争のことさ!……いやそれを『表へ』と云ったつもりだが、まア、いいじゃないか。そんなこと。早く寝ろよ」