2015年5月28日
動物風景-23 荻野彰久 荻野鐵人
<結局ぼくは空腹と寒さに堪えながらも、どうかしてジュリエットの死んだあとの子供たちのもとへ帰るために彷徨(さまよ)ったのだが、いつのまにか犬殺しに捕まったのさ>とまで言おうとしたが終りの言葉はスピッツ嬢には言わなかった。
「ハハハハ、アンタ、泣いているじゃないの」とスピッツ嬢が不意に云うから、
「バカ、泣くものか、ぼくはそんなセンチメンタリズムは大嫌いだ」
「じゃ、その鼻の両側に光るものは何よ」
「バカ、これは過去に生活してしまったロウハイ物じゃないか!誰が涙など」
「ね、ちょっと、ワタシたち死んだらどうなりますの? 幼いときワタシは死ぬのがとても怖かったわ、でも今はどうして死が怖くなくなったのかしら? きっとアナタのせいよ、アナタにめぐり逢ったのでワタシもう死んでもいいわ!」と小さい赤い舌べらをいたずらっぽく出して見せながらスピッツは云い、急に話題をかえて金網を前脚でガリガリさせながら訊ねた。
「ほんとにわたしたち死んだらどうなるの?」