2015年6月1日
動物風景-24 荻野彰久 荻野鐵人
「どうなるって、知らない、そんなことは!」とぼくは床に体を曲げたまま言うと、
「アンタ、わたしたちは明日になれば殺されてしまうのよ、ね、死んだらどうなるの?」
とスピッツはトントンと左の前脚で金網を叩きながら言った。
「ぼくは知らないてば!そんなこと!水素と酸素と窒素とそれから――」
「いいえ、そんなことじゃないわ、明日、ワタシたちが死んだらそれからは、どうなるかって訊いているじゃないの」
「地獄だ」とぼくが云うと、
「どうして?」とスピッツ嬢はすかさず訊ねた。
「良いことをしている人間が天国を占めてしまえば、キミ、ぼくたち畜生には地獄にしか、空地がないのだよ」
「人間はどんなことをしたの?」
「知らん、そんなことは、人間に訊いてくれたまえ。ぼくはもうとっくに人間から断られたのだから」
「例えば?」とスピッツが訊くからぼくは、
「例えば、人間はロケットを創って、宇宙を征服したじゃないか」
「何よ、そんなもの一種の兵器じゃないの」
「それじゃ、ナイロンを創ったり電気洗濯機を創ったりさ」
「ううん、それだけで、人間だけが天国へ行けるの」
「君は疑い深いね、人間は本も創ったじゃないか、それから―」とぼくは押し黙っていると、スピッツ嬢は首を傾げながら、
「ワタシは、そうじゃないと思うわ」と云うから、
「じゃ、何だ?」とぼくが訊くと、
「人間は神を創ったからだと思うわ」とスピッツ嬢が云う。