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2015年6月4日

動物風景-27 荻野彰久 荻野鐵人

あたりは急に静かになった。風はやみ、雪は降っている、ボタン雪だった。サアッ、サアッと空から降って来る音は、音というよりは感じだった。
「コリーさん、コリーさん」と又、スピッツ嬢が、キンキン声で吠えたので、ムックリぼくが顔を挙げると、
「後2、3時間で殺されるかと思うと妙に落ちつけなくて」と黒い粒らな眼をパチクリさせながら云った。
「寝ろよ、寝ろよ、先ずぐっすり寝ておけよ」とぼくが言うと、
「人間はいいなア、とアンタ思わないこと?」とスピッツ嬢は大きく溜息をつきながら言った。
「何だってまた人間が急に羨しくなったのだい?」とぼくが訊くと、
「だって、ワタシたち犬を、生かすことも、殺すことも自由ですもの」とスピッツ嬢は羨しそうに云った。
「あ、君は女性だね」とぼくは、故意にそのことには触れずに云うと、スピッツ嬢は恥しいのか急に黙り込んでしまった。ぼくの癖で、相手が妙齢(みょうれい)の女性だと知ると、ぼくは直ぐ剽軽(ひょうきん)になりお喋りになる。不可(いけ)ないと思うのだが、これはぼくの悪い癖で致し方がない。



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