2015年6月5日
動物風景-28 荻野彰久 荻野鐵人
「人間だって同じことさ」とぼくは体を曲げて寝たまま言うと、
「それは何のこと」とスピッツ嬢が金網へ口をくっ付けるようにして訊ねた。
「さあー」
何を考えているのかスピッツ嬢は暫く黙っていたかと思うと、
「ね、ロミオさん、アンタ、どうしてこんな死刑場なんかに来たのよ、ワタシは先刻からそれを訊ねているじゃないの!」と焦立しい声で訊ねた。
「つまり、人間は、自然界という神から、われわれ畜生は、人間という神から、結局セックスを通して、いいようにあやつられている人形劇さ」
「あ、それで、アンタ、さっきから、神、神と言っていたのね。いいわ、わたしも神とやらが、解ったような解んないような気がして来てよ、ところが日本には神というガイネンがないから、『神』ということばを使うとすぐ、キリスト教会から、何か貰ったみたいに思われるのだネ」
「何言うか」と太い声で秋田君が、隣で言った。スピッツもぼくも黙って舌を出していると、
「日本にだって神はあるさ、神道があるさ」と太い声が言った。