2015年6月8日
動物風景-29 荻野彰久 荻野鐵人
「そうさ、どの神でも、結局は、同じことさ」と隣室の「米(よね)」君が突然勘高い声で、
「何言うか!日本にだって神があるのだぞ、神道があるのだぞ」と云うと、隣の秋田犬が、太い濁った声で、
「一つの病気にピタッと効く特効薬がないから、多くの薬剤が出現するように、人間の生活の苦悩や「死」が避けられないからこそ、多くの「神」が――日本の神も印度のブツダも西洋の神も、タンジョウするのさ」と叫んだ。
「そうさ、命に定めがある限り、心に悲しみがある限り、どこにも神があるさ」とぼくが言うと
「知ったかぶりで、偉そうなこと、おっしゃって!」とスピッツ嬢が激しく笑った。
「何をこ奴!」とぼくはその白い歯拉があまり美しかったので、檻から飛び出して行って、強く彼女を抱きキスしたかったので、思わず前脚でトントン扉を叩いた。
無意識だった。本能的だった。――と何と不思議ではないか、ぼくの檻の扉が、ポンと開くではないか! 孰(いずれ)は、看視人が戸閉りの釘をさし忘れたのであろうが、兎に角ぼくの扉が開かれたのだった。<嬉しかった。夢ではないか知ら?>とぼくは半信半疑で、檻から外へ出た。