2015年6月8日
顔を見なかった出会い 坪田英熙
2013年の7月に家内と一緒にアメリカに行った。
目的は、当時コネチカットに住んでいた三男一家を訪ねることだった。
嫁さんの父親がアメリカに行ったことがないというので、加わって貰った。
アメリカ滞在の間に、この親父さんと二人でワシントンDCに行き、博物館、美術館を訪ねたあと、レンタカーでウイリアムズバーグ経由ノーフォークまでドライブした。
ワシントンDCのナショナル空港で車を借り、座席の横のボックスにものを入れようとしたら、前の借り主が忘れていったらしい何かの会議の出席者の名札と名刺を見つけた。
名札の名は、Alan Grossで、ワシントンDCでの会合らしい。
名刺の方はUnited States Coast Guard 1790 という文字の入った米国沿岸警備隊の紋章つきで
Christina L. Mandour-Brackin
LT US Coast Guard
と書いてある。
LTのあとにインクで塗りつぶした文字があり、うっすらとJG(Junior Grade)と読める。
つまり、ご本人は沿岸警備隊の女性士官で、最近中尉から昇進した大尉だということのようだ。
そこでひとつの映画のシーンを思い出した。
トム・クランシーの小説、CIAの分析官ジャック・ライアンのシリーズに「いまそこにある危機(Clear and Present Danger)」というのがある。
映画化されたそのストーリーの冒頭、カリブ海で沿岸警備隊の警備艇が不審な豪華ヨットを停止させ、臨検する。ヨットはアメリカ大統領の友人である富豪一家のもので、麻薬組織が乗っ取って家族を殺害し、逃走中とわかった。
その警備艇の艇長が女性士官だった。
沿岸警備隊の女性士官とは、どんな人物なのか。そんな好奇心もあって、帰国後名刺にあったeメールのアドレスにメッセージを送った。
「名札とあなたの名刺をレンタカーのなかで見つけたが、送りましょうか。それともこちらで廃棄してもいいですか?
それはそうと、あなたは最近昇進されたのですね。それも予期しなかった早期の昇進だったのでしょう?新しい名刺を用意する時間的余裕がなかったようだから。
おめでとうございます」
2.3日して返事が来た。
「お便り拝見。笑っちゃいました。それは私が友人のGrossに渡した名刺です。
それが今日本にあるとはね。
私の昇進は正にご推察の通りです。御親切に有難うございます。
名札と名刺はそちらで廃棄して下さい。彼には新しい名刺を渡します。
日本には2010年に2週間滞在したことがあります。東京、大阪、京都に行きました。横浜には古い友人がいるのだけど、残念ながら行く機会がありませんでした。
日本は本当にいい国ですね」
(2015年5月)