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2015年6月10日

動物風景-31 荻野彰久 荻野鐵人

ドンと弾が足もとで炸裂した。振り返った。禿頭(トクトウ)病の男が銃を構えていた。ぼくは降り積った雪の上を兎のように走って逃げた。畑の中に大きな松の木が立っていた。後ろが静かになった。振り返えるともう誰も追って来てはいなかった。

一面白い雪が風で舞っていた。ぼくは松の樹の根もとに尻をすえ前脚を立てて、逃げてきた元の道を眺めやった。小高い丘になっていて、それは山手の方に道は続いていた。

自分はいつか低い平地に逃げて来ていた。恐怖心がぼくから逃げていった。興奮がぼくから沈んでいった。

見上げた。松の大樹はコーモリ傘のように枝を拡げて、間々から、低く垂れ込めた空が見えた。地平線を眺めた。空から雪がヒラヒラと風に乗って舞い降りていた。

「行こう!」ぼくは松の根株から尻をあげ、自分の体を一通り見廻した。趾間に涙と一緒に雪が附着していた。濡れた尻尾は、樹氷のように毛に雪が凍りついていた。
首を廻して背中を見た、ところどころ雪を受けて老人のように、半白になっている。

首輪から鎖が垂れていた。それは軽い金属製の物であった。迷い歩いているうちに、濡れたまま地面を引きづって歩いているあいだに、腐ったり、棒杭に引っかかって千切れたりして、最初よりは大分短くなっていた。まだ半分より長く残っていて、地面を引きずって歩くためか、先端が光っている。ああ、この鎖のためにぼくはどんなに不自由な思いをしたことであろう?



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