2015年6月16日
動物風景-34 荻野彰久 荻野鐵人
見ると、後向きに歩いていく最先頭の男は犬の餌である小さい、罪の子宮のような、時々赤い血のしたたり落ちる肉の塊を手に持って、それを目の前に見せ、匂わせながら、犬たちを誘っていく。
そのときだった。後向きに歩いて行く先頭の男の手の肉塊に「黒」が飛びついた。肉塊は白い雪の上に落ちた。「黒」がウワッと齧(かぶ)り付いた。するとその上から「米」も「白」も「秋田」も奪い合いとなり、噛み合いとなった。可愛想に「黒」は仲間の犬から噛み殺されて首から赤い血を見せながら白い雪の上に仆(たお)れた。
犬殺しの男は死んだ「黒」の後脚二本でつかんで、自転車のうしろの竹篭の中へ入れた。引かれていく犬たちの行列からクンクンクンと隠れているぼくの匂いに気づいたスピッツが顔を挙げて吠えた。
ぼくは道下の雪の積もっている水のない溝の中に身を隠していた。勝手に不意に列から離れたスピッツは、ぼくのいるほうヘギャロップで走って来た。
と、どこからか突然ドーンと、銃声がした。と思うと、雪の上に真赤な血を吐いてバッタリぼくのスピッツが仆れるのが見えた。彼女は幾度か起き上ろうとしたがそのまま倒れて腹を高く低く波打たせていた。
男はスピッツの体を竹篭の中へ投げた。
行列は行進を続けていた。