2015年6月17日
動物風景-35 荻野彰久 荻野鐵人
犬たちは何でもなかったように、またぞろぞろ犬殺しの後へ続いて行く。処理所の入口に来た。竹篭からスピッツがひきずり出された。未だ死んでいなかったらしい。
ぼくと別れて処理所の中へ入るのを嫌って、拒否するかのようにキャアンキャアン悲しそうな声でしばらくしてしゃくりあげ、ぼくのいるところを眺めた。
男は足でスピッツの横腹を蹴った。スピッツは重病入のように、よろめいて仆れた。他の犬たちも全部、中へ入っていった。
ぼくは処理所の前の堤の下で、雪の上に腹をすりつけて、死んでいないにちがいないスピッツの出て来るのを待っていた。と、まもなく喚(わめ)きが聞えた。スピッツの声ということはぼくの勘で知れるのだった。
ぼくは耳を塞いだ。スピッツの殺される現場はそのときのぼくの目には見えなかった。叫びが聴こえた。ぼくは眼をつぶった・・・・・。
もう何も聴こえなかった。もう何も音がしなかった。湿気を含んだ風がぼくの面を掠めた。もう何も聴こえなかった。が耳の奥でスピッツのすすり泣きが渦を巻いていた。