2015年6月25日
春の夢-2 荻野彰久 荻野鐵人
それでも芳一は信じられぬまま辺りを見廻すと、例の男は芳一の見ている間、すばやくナベやカマや米ビツにベタベタと札を張り、他のもう一人の男はノートに記録を取っていた。
妹は泣きながら飛び出していったかと思うと、間もなく隣の動物剥製屋の頭の禿げあがった60くらいの親爺に手を引かれ何か慰めごとを言われながらお勝手へ入ってきた。
「そりゃ、お前たちだって仕事さ。え。義務でやっていることだろう。でも現在の憲法では、生活に必要なものには差押えは出来ない筈だ。これはいったい何だ!米ビツやナベカマにまで張紙をする権利は明らかに憲法違反じゃないか……最低の生存権までも奪ってしまうというのか!お前たちは一体法律というものを知っているのか。えっ?お前たちがこんな憲法違反行為をしてしまったからには、これは当然国の定める法律でこのことを明らかにしなければならないだろうことは知っているのだろうな…」剥製屋は怒鳴りつけると後ろに両手を組み合わせたまま急いで開いたままの小さい窓から出て行く。