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2015年6月30日

春の夢-5 荻野彰久 荻野鐵人

「或る種の貧困は、昔は清潔な人間のみにしか払われない尊敬の象徴とみなされた栄光の大時代もあったのでございました。この種の美しい貧困は本人の親どころか、そういう親を持ったのを子は大いに誇りとしたものでございます。ところが今日では貧困が毛虫の如く忌嫌われるのに反しまして、ハイ、二人や三人の女を囲うことは侮蔑の視線に曝される所か却って娘や息子の出世の助けにもなる風潮のようでございますので、ついその……ない女を囲い、そのため破産したと、嘘を申したのでございます」
「この調書には被告は子供が死んだらヤレヤレと喜び子供が生れたらアーアと溜息をつく習癖があるとされているようだがー」
「ハイ。裁判長どの、手前は確かにさよう申しました。手前は学問はございませんから表現は存じませんけどその、アレです」
「アレって?」
「ハイ、そのー」
「そのって、どうしたのじゃ?」
「ハイそれが、親にとっては生れた子供を育てるだけで既に大変なことでございます。が、それに更に教育を施すことは……その何です……更に更に大変なことでございまして……それを、ハイ、手前はー」
「馬鹿!何を申すか!では被告は犬猫のように教育もつけずに生み放しにしたいと申すのか。浪人をさせぬよう幼いうちからキチンと教育をするのが親の当然の義務ではないのか…」
「ハイ、裁判長どの、生れてくる子に責任を意識すればこそ、ハイ、裁判長どの、アーアと溜息がついその……尽きたくなるのでございます」



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